商標登録の審査に際しての早期審査制度について説明します。

1.早期審査制度の説明

早期審査制度とは、出願人等がその商標登録出願に係る商標を既に使用しているか又は使用の準備を相当程度進めている場合については、一定の条件のもとに、審査及び審理を通常に比べて早期に行うこととし、早期権利化の社会的要請に応えるために特許庁が定めた制度のことを言います。

早期審査の申出をするためには、「早期審査に関する事情説明書」を提出しなければならず、早期審査の対象となる出願であることを証明する証拠資料を提出することが必要になります。

早期審査が行われると、通常の審査では、特許庁の審査結果に関する何らかの通知がされるまでの期間が約5か月かかるところが、2か月弱に短縮されるので、一刻でも早く登録を得たい場合には、有用な制度と言えます。

審査期間について

2.早期審査の対象となる商標登録出願

早期審査が認められるためには、一定の条件を満たす必要があります。

具体的には、次の2つのパターンに当てはまる場合でなければ、早期審査をしてもらうことはできません。

パターン1

出願人又はライセンシー(商品の販売許諾を与えられている者等です)が、出願商標を指定商品・指定役務に既に使用している又は使用の準備を相当程度進めていて、かつ、権利化について緊急性を要する出願であること

この「権利化について緊急性を要する出願」とは、次のいずれかに該当するものをいいます。

a)第三者が許諾なく、出願商標又は出願商標に類似する商標を出願人若しくはライセンシーの使用若しくは使用の準備に係る指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用しているか又は使用の準備を相当程度進めていることが明らかな場合

b)出願商標の使用について、第三者から警告を受けている場合

c)出願商標について、第三者から使用許諾を求められている場合

d)出願商標について、出願人が日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している場合

少しわかりにくいと思いますので具体例を挙げます。

a)は、他人が、貴社が登録を得るために出願した商標と同じか類似するする商標を無断で使用している場合などです。

b)は、貴社が出願した商標を既に自社の商品やサービスに用いている場合に、その使用に対し第三者から商標権侵害であるとの警告を受けている場合です。

c)は、貴社の出願している商標が登録されたあかつきにはぜひ、その登録商標を使用させてほしいと持ち掛けられている場合です。

d)は、出願した商標と同一の商標を外国の機関にも出願している場合です。

そして、商標の使用の事実を示す証拠として、商標が付された商品を撮影した写真や商標が掲載された役務に関するパンフレット又はカタログ等の客観的な資料と、上記のa)からd)のいずれかに該当することを証明する資料とともに提出しなければなりません。

他にも、細かい要件はありますが、大きなポイントとしては以上のことが重要です。

このように、パターン1の場合は、適用条件が厳しく、実際のところ、なかなか、これらの要件を満たしているとはいえず、または満たしていると証明することは容易ではありません。

そこで、特許庁は、適用条件を若干緩めたパターン2に該当するときも早期審査の適用を認めるようになりました。

パターン2

出願人又はライセンシーが、出願商標を既に使用している商品・役務又は使用の準備を相当程度進めている商品・役務のみを指定している出願であること。

これだけです。

一見、簡単に見えますが、ポイントはここです。

『・・・商品・役務「のみ」を指定している・・・』

例えば、次のようなことが言えます。

今現在、シャツを製造しており、出願した商標を付けて販売しているとします。

この場合、「出願商標を既に使用している商品」と言えるので、早期審査の適用を受けることができます。

しかし、しばらく先のことになるが将来的にスニーカーにも同じ商標を付けて販売する予定はあるので、同じ出願で、両方ともに登録を得ようとしている場合には、この「スニーカー」については、「使用の準備を相当程度進めている商品」とは言えないので、先の「のみ」という要件を満たすことができず、シャツ、スニーカーともに早期審査の適用を受けることはできません。

また、次のような問題も起こります。

現在Tシャツの製造を行い、出願する商標を付けて販売しているとします。

今のところ製造しているのはTシャツだけですが将来的にはジャケットやコートなども製造販売したいと考えています。

この出願をする際に通常ですと、指定商品は「被服」という包括的な記載をすることで、Tシャツからジャケット、コート、さらに言えば靴などの「履物」を含む広い範囲を指定商品としても同一料金で出願することができます。

但し、パターン2の早期審査の適用を求めようとすると、やはり「のみ」の要件を満たさなくなるので、指定商品を「被服」とすることはできず、実際に販売を行っている「Tシャツ」としなければなりません。

指定商品・指定役務の中に、出願商標の使用等を証明できない商品・役務が含まれている場合には、早期審査の申出と同時か、申出以前に、その商品・役務を削除する補正が必要となります。

したがって、費用を抑えつつ、できるだけ広い範囲で権利を取得をしたい場合は、早期審査制度を利用するわけにはいきません。

補正書について

 

さて、ここまで、早期審査の利用の仕方、メリット、デメリットを見てきましたが、早期審査の申出をしても、必ずしも早期審査がされるとは限らないので注意が必要です。

こちらが提出した資料を基に、最終的には、特許庁の裁量的な判断で早期審査が行われるか否かが判断されるからです。

 

3.早期審査制度についての弊所の考え

弊所では、将来に亘って貴社の事業に資する、強い商標権の取得を目指すことを基本方針としております。

先ほど申し上げたように、早期審査制度を利用すると、権利範囲を狭めなければならない事態も生じます。

もちろん、メリットの方が大きい場合もありますので、ケースバイケースの判断にはなり、出願のご依頼を受けた時点で、個別に早期審査制度の適用を受けるか否かの、ご相談を承ります。