8.円形を組み合わせた図形商標の見た目が似ているとされ、商標登録されなかった事例
本件商標(左)及び引用商標(右)は下記に示すとおりの構成からなるものである。
両商標は、大リングと小リングとが相互に一端において重なるように配置されている点、大リングが肉太部分と肉細部分を有する楕円形状をしている点で一致し、小リングについて、本件商標では、大リングの長径の半分程度の直径のほぼ円形のものとなっているのに対し、引用商標では、大リングの長径の約2/3程度の長径の楕円形状のものとなっている点、リングの配置について、本件商標では、小リングが大リングのほぼ中央下部に相互に一部重なるように配置されているのに対し、引用商標では、大リングの肉細部分が小リングの肉厚部分に相互に一部重なるように配置されている点で相違している。
そして、両商標は、特定の観念や称呼を生じないものであることが、その形態から明らかである。
このような商標同士の間に商標法4条1項11号にいう類似に該当する関係があるか否かの判断は、それぞれの商標の構成全体の有する外観上の印象が互いに相紛らわしいか否かによってするほかない。
取引者・需要者が、図柄によって構成される商標について、必ずしも、図柄の細部まで正確に観察し、記憶し、想起して、これによって商品の出所を識別するとは限らず、商標全体の主たる印象によって商品の出所を識別する場合が少なくないことは、日常の経験に照らして明らかであり、また、商標の使用は種々の態様において行われ、大きさ、向き、その上に商標を示すもの(紙・板・布・金属など)等において多様であり得ることも当裁判所に顕著である。
両商標を時と所を違えて離隔観察をした場合、外観上、最も看者に強い印象を与えるのは、大リングと小リングが相互に一部重なるように配置されている点であって、一見したとき最初に認識し得る基本的な特徴であり、外観上、次に看者に強い印象を与えるのは、大リングが楕円形で、楕円の長径の一端におけるリングの肉厚が最大とされているが商標全体における最も大きな部分を占め、前記の基本的な特徴に次ぐ主要な特徴といい得るものであるから、看者は、一般に、両商標の上記一致点について強い印象を受け、これを記憶し、想起するものと認めることができる。
また、小リングの具体的形状、大リングに対する大きさの比率の違い、大小リングの配置も、無論、看者に印象を与えないことはないものの、それらは、商標の類否判断の観点からは、いずれも、引用商標と比べて些細な変形、変種としか見ることができない。
してみると、両商標は、商標の構成全体の有する外観上の印象が相紛らわしいものといわざるを得ない。