商標の類否判断~「取引の実情」と「BLACK」事件②~

今回は、前回の続きのお話しです。

前回は、
①色を表す「BLACK」の名称は、商標登録をするのにある程度のデザインを施してやらないといけない場合があること、
②デザイン化の程度によっては、他の登録商標と類似すること
をお話ししました。

前回の記事についてはこちらを参照してください。
商標の類否判断~デザイン化された「BLACK」①~

今回は、②に関して、その商標も何に使う商標なのか、つまり、指定商品・役務が異なることよって類似するか否かの判断が分かれることがあるという話です。

1、登録商標の類否についての大前提

商標の類否の判断基準について裁判所は以下のように判断しています。
「商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,かつ,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのを相当とする(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁)。
前回もお話ししましたが、これが大前提となります。

2、「取引の実情」による商標の類否判断の修正

今回取り上げた事件では、前回のお話しでは、商品「マッチ」については類似するという結論になりましたが、商品「たばこ」については類似しないとされました。
これは、「マッチ」と「たばこ」では「取引の実情」が異なるからという理由に起因します。

①「たばこ」についての取引の実情

たばこ等の取引の実情について検討すると,証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
すなわち,たばこ等の中核商品である紙巻きたばこは,いずれも価格の類似する20本入りの箱を1つの単位として販売されているが,一般的な生活必需品などではなく,購買力を有する成人の極めて広い層が需要者となっている典型的な嗜好品であって,その製造,卸売及び小売に関わる取引者も,たばこ事業法により制限されている。
そして,原告らが製造・販売している「マールボロ」との名称を有する紙巻きたばこの銘柄には20種類以上が,引用商標の商標権者が製造・販売している「セブンスター」又は「セブン」との名称を有する紙巻きたばこの銘柄には15種類以上が,それぞれ存在することからも明らかなように,紙巻きたばこは,銘柄ごとのタール及びニコチンの含有量その他の成分の違いによって味わい等に微妙な差異ないし特色が設けられており,取引者及び需要者も,そのような各銘柄の差異ないし特色が消費(喫煙)ひいては商品の選択に当たって重要な意味を持つものとして認識している。
しかも,たばこ等の製造・販売業者は,その商標,上記20本入りの箱の外観(パッケージ)及び銘柄の命名に意を凝らしてある銘柄について他の銘柄との間で差別化を図り,併せて各銘柄の有する特色又はその印象を強調した宣伝広告をするなどしている。
また,たばこ等の製造・販売業者は,上記のようにたばこが典型的な嗜好品であることを反映して,このような自社のたばこの宣伝広告の一環として,たばこの消費(喫煙)に関連する各種のたばこ関連用品についても,自社のたばこの商標等を付するなどした上で頒布している。
そのため,たばこ等の取引者及び需要者は,これらの商標等の違いによって多数の銘柄及びそれぞれの銘柄の有する特色をおおむね正確に識別しており,取引に当たって特にその商標の細部の差異についても十分な注意を払い,自己の最も嗜好する銘柄を選択しているのが実情である。

②引用商標の著名性について

その他、以下のように判断して、星印が著名な商品ブランドであることも認定し、非類似の補強材料としています。

引用商標の商標権者は,「セブンスター」との称呼を生じて7つの星との観念を生じさせる「Seven Stars」との商標を使用したたばこ商品を販売しており,当該銘柄が我が国における紙巻きたばこの販売実績の首位を占めている。
そして,引用商標は,星形の図形を縦に7つ並べていることから,これを指定商品であるたばこ等に使用した場合,取引に当たりその商標の細部の差異についても十分な注意を払う取引者及び需要者において周知著名のいわゆる「セブンスター」ブランドに属する銘柄のたばこ等を想起させるものである。

③登録商標の類否につての結論

以上によれば,本願商標及び引用商標の指定商品のうち,たばこ等についてみると,その取引者及び需要者は,取引に当たり商標の細部の差異についても十分な注意を払うものであって,本願商標と引用商標とでは,「ブラック」との称呼が生じること及び「黒,黒色」との観念を生じることで共通しているとはいえ,両者は,外観を著しく異にしている上に,引用商標が我が国において周知著名のいわゆる「セブンスター」ブランドに属する銘柄のたばこ等を取引者及び需要者に想起させる一方,本願商標及び引用商標は,いずれも,我が国において周知著名のいわゆる「マールボロ」ブランド又はいわゆる「セブンスター」ブランドに属する銘柄のたばこ等を取引者及び需要者にそれぞれ想起させるから,本願商標及び引用商標が指定商品であるたばこ等に用いられたとしても,たばこ等の取引者及び需要者において,その出所の識別に当たって誤認混同を生じるおそれはないものというべきである。

3、これから商標登録するに際しての教訓

このように、同じブランド名を付けるとしても、その名称を使用して販売又は提供する商品やサービスが何であるかによって、類似する場合と、類似しない場合のどちらにもなることがあります。
同じ商標が既に登録されているからと言って、それが「登録商標」として類似するかは別問題ということです。

「指定商品や指定役務が何であるのか」

これが、商標登録においては非常に重要な観点となります。
同じ商標が登録されているからと言って諦めるのは早くないですか?
指定商品または指定役務をもう一度、よく考えてみることも大切です。