商標の類似性を判断する基準として一般に称呼(その商標から生じる呼び方)、外観(その商標の見た目)、観念(その商標から生じる意味内容)を総合的に考慮して判断するという方法が取られます。

このうち、外観に関してはただ見た目を判断するということもあり、はっきりとした基準があるわけではなく、判断者の主観によるところも大きいと言えます。
なので、類似性について難しい判断を迫られることも多々あります。

今回は、どくろマークの類似性を肯定した裁判例を元に、どのように外観の類似性を判断するのかを見てみたいと思います。

1.登録商標の類似性が問題となった事件の概要

Xは左のどくろマークの登録商標を所有しているところ、Yが右のどくろマークの商標を使用しているので、XがYに対してその商標の使用の中止及び損害賠償を求めたという事件です。

2.登録商標の類似性についての裁判所の判断(外観についての判断だけ抜粋)

a 共通点

控訴人標章の各要部である図形部分(以下,併せて「控訴人標章に係る図形」という。)と,被控訴人商標1との主な共通点は,①正面を向いた頭蓋骨と,扁平に交差させた2本の骨とによって構成されている点,②両眼窩部は,楕円形であり,左右それぞれ輪郭に近い方の端が下がっている点,③両側頭部に,曲線状の切れ込みがあり,立体感を醸し出している点,④鼻孔部の下方が二股に分かれている点,⑤両眼窩部,両側頭部の切れ込み及び鼻孔部は,地色とは別の色で表現されている点である。

b 相違点

他方,控訴人標章に係る図形と被控訴人商標1との主な相違点は,①頭蓋骨部の輪郭(控訴人標章に係る図形は,被控訴人商標1と比べると,頭蓋骨部の幅に対して前頭部,すなわち,頭頂部から眼窩部までが相対的に長めであり,やや縦長の印象を与える。),②両眼窩部の輪郭,③両側頭部につき,控訴人標章に係る図形は,曲線状の切れ込みの幅が,被控訴人商標1よりも狭いこと,④控訴人標章に係る図形の鼻孔部は,被控訴人商標1の鼻孔部よりも全体的に細長いこと,⑤両頬骨部の形状,⑥上顎部につき,控訴人標章に係る図形においては,長い2本の犬歯及びこれらに挟まれた6本の歯が描かれているのに対し,被控訴人商標1においては,歯部が全く描かれていない点,⑦2本の骨の形状である。さらに,頭蓋骨と2本の骨との位置関係につき,控訴人標章3及び控訴人標章6の要部である図形部分と,被控訴人商標1との間には,前者においては犬歯及び他の歯の一部が2本の骨の交差部分に接しているのに対し,後者においては,頭蓋骨と2本の骨とは,完全に離れているという相違が,控訴人標章4の要部である図形部分と被控訴人商標1との間には,前者においては,頭蓋骨の背後に2本の骨が配置されているのに対し,後者においては,頭蓋骨の下方に2本の骨が配置されているという相違が,それぞれ存在する。

c 検討

(a) 控訴人標章に係る図形及び被控訴人商標1は,いずれも正面を向いた頭蓋骨と扁平に交差させた2本の骨がくっきりと描かれている。
そして,①頭蓋骨及び骨は,一般人が日常生活において直接目にする機会はほとんどないこと,②特に,頭蓋骨は,一般に,白骨化した人の頭蓋骨を指す「どくろ」又は「晒された頭(こうべ)」を意味する「されこうべ」という不気味なイメージを与え,人の死などの凶事を連想させるものであることに鑑みると,控訴人標章に係る図形及び被控訴人商標1のいずれも,その外観に接した看者にとっては,一見して,正面を向いた頭蓋骨と扁平に交差させた2本の骨とを組み合わせた図形として強く印象付けられ,その旨の観念も生じるものと認められる。
さらに,控訴人標章に係る図形と被控訴人商標1とのその他の共通点,すなわち,①両眼窩部が楕円形であり,左右それぞれ輪郭に近い方の端が下がっている点,②両側頭部に,曲線状の切れ込みがあり,立体感を醸し出している点,③鼻孔部の下方が二股に分かれている点,④両眼窩部,両側頭部の切れ込み及び鼻孔部は,地色とは別の色で表現されている点も,頭蓋骨部の特徴として強い印象を看者に与えるものといえる。

(b) 他方,前述した控訴人標章に係る図形と被控訴人商標1との相違点のうち,頭蓋骨部及び両眼窩部の輪郭,両側頭部の切れ込みの幅並びに鼻孔部,両頬骨部及び2本の骨の形状に係る相違は,いずれも細部にわたるもので,微差の範囲にとどまるものである。
また,確かに,上顎部の歯部の有無は,明確な相違といえるものの,控訴人標章に係る図形の歯部のうち最も大きい犬歯でさえ,頭蓋骨部全体から見れば小さなものにすぎず,左右の犬歯間の歯はそれよりも更に小さい。歯部全体をみても,その頭蓋骨部に占める面積の割合は,少ないものである。
これらの点によれば,歯部は,控訴人標章に係る図形においてさほど目立つものとはいい難く,したがって,歯部の有無は,控訴人標章に係る図形と被控訴人商標1との相違を際立たせるものとはいえず,看者にとっても,上記相違を印象付けるものということはできない。

⒞ 頭蓋骨と2本の骨との位置関係に関しても,控訴人標章3及び控訴人標章6の要部である図形部分と,被控訴人商標1との間の前記相違については,被控訴人商標1において,頭蓋骨と2本の骨とは完全に離れているとはいえ,かなり近接しており,その間隔はわずかなものである。このことから,上記位置関係の相違も,看者にとって,控訴人標章3及び控訴人標章6の要部である図形部分と,被控訴人商標1との相違を印象付けるものとはいい難い。
控訴人標章4の要部である図形部分と被控訴人商標1との間の前記相違についても,前者においては,2本の骨の交差部は,頭蓋骨の陰に隠れる位置にあるために描かれていないものの,頭蓋骨と2本の骨は,上記交差部の上に頭蓋骨の下部が重なるような位置関係に配置されており,後者においては,2本の骨の交差部が頭蓋骨のすぐ下に近接して配置されている。
この点にかんがみると,控訴人標章4の要部である図形部分と被控訴人商標1との前記相違も,看者にとって,両者の相違を印象付けるものまではいえない。

(d) 小括

以上によれば,控訴人標章に係る図形と被控訴人商標1とは,外観上,看者にとって,一見して,正面を向いた頭蓋骨と扁平に交差させた2本の骨とを組み合わせた図形として強く印象付けられるものであるという点において共通し,さらに,前述のとおり,両眼窩部,両側頭部及び鼻孔部の形状が看者に強い印象を与えるという点においても,共通している。
これに対し,前述した相違点は,そのすべてを併せてもなお,上記共通点に凌駕されるものというべきである。
したがって,控訴人標章に係る図形と被控訴人商標1とは,外観において類似しているものと認められる。

3.これから商標登録をする際に

外観の類似性判断はただ見た目について判断するというものですが、その判断手法にはある程度の共通性があり、本事件でもそれは踏襲されています。
その判断手法とは、まず両商標の共通点と差異点を挙げた上で、そのうちどの部分が最も見る人の注意を集め、どの部分が些細な違いであるのかということを認定し、注意を集める部分の類似性を判断していくというものです。
そして本事件では、どくろ部分を骨の交差部分が「その外観に接した看者にとっては,一見して,正面を向いた頭蓋骨と扁平に交差させた2本の骨とを組み合わせた図形として強く印象付けられ」とされて商標の重要部分であると判断されています。
またそのほかの部分については「相違点のうち,頭蓋骨部及び両眼窩部の輪郭,両側頭部の切れ込みの幅並びに鼻孔部,両頬骨部及び2本の骨の形状に係る相違は,いずれも細部にわたるもので,微差の範囲にとどまる」とされ類似性に判断には重要性を持たないとされています。

これから商標登録をしようとする際にも、ロゴマークのなかで細かい部分が違っていても、最も消費者の目を引く部分が似ていれば、全体として類似するという判断が下される可能性があります。
また、登録の場面でなくとも、本事件の様に他社の商標権を侵害することもありうるので、慎重に判断しなければなりません。

Yの商標も登録商標なのに他社の商標権侵害になるのかと思われた方は鋭い視点をお持ちです。
これに関して、本事件ではYの本件両商標は非類似であるという主張が退けられていますが、その理由が特殊なので、次回お伝えしたいと思います。

本記事は知財高判平成26年12月17日(平成26(ネ)10005)を元に執筆しております。