商品の輸入販売と商標登録をする際に気を付けたいこと~Chromax事件~

海外の商品を輸入して、国内で販売する場合、輸入元の海外業者が日本国内で商標登録をしている場合は、契約によって国内での登録商標の使用を認めてもらえば何の問題もありません。
しかし、輸入元の海外業者が日本国内で商標登録をしていない場合、輸入した会社は自社名義で商標登録できるのでしょうか。
今回ご紹介するのは、国内に輸入した会社が、輸入元の海外業者に無断で日本国内で商標登録をした場合に、輸入元の海外業者がその取り消しを求めた事件です。

1.商標登録取り消しについての事件の概要

X(原告)は,「Chromax」の文字を標準文字で表してなり,第28類「ゴルフボール,ゴルフ用具」を指定商品とする登録第5276520号商標(平成20年4月8日登録出願,平成21年10月30日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者です。
Y(被告)は,平成22年8月6日,特許庁に対し,本件商標の登録は,商標法53条の2の規定により取り消されるべきであるとして審判(取消2010-300869号事件)の請求をしました。

注:第53条の2
登録商標がパリ条約の同盟国、世界貿易機関の加盟国若しくは商標法条約の締約国において商標に関する権利(商標権に相当する権利に限る。)を有する者の当該権利に係る商標又はこれに類似する商標であつて当該権利に係る商品若しくは役務又はこれらに類似する商品若しくは役務を指定商品又は指定役務とするものであり、かつ、その商標登録出願が、正当な理由がないのに、その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないでその代理人若しくは代表者又は当該商標登録出願の日前一年以内に代理人若しくは代表者であつた者によつてされたものであるときは、その商標に関する権利を有する者は、当該商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。

これに対して特許庁は,「原告ないし原告代表者(いずれも本件商標の商標権者であり,被請求人である。)が,本件商標の登録出願の日前1年以内に,被告ないし有限会社関西ゴルフ設備(被告との間で日本における輸入代理店契約を締結している関西チェア株式会社の関連会社であり,同社と代表者が同じである。)から,日本における独占販売権を付与されていたとの事実を認めることはできないが,原告及び原告代表者と被告との間には,継続的な取引により慣行上の信頼関係が形成され,原告及び原告代表者は,日本国内における被告の商品の販売体系に組み込まれるような立場にあった者とみることができるから,商標法53条の2所定の「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当する。」としました。
また、XがYの商標を日本国内で商標登録出願したことについて「正当な理由」も認められないとして、平成23年5月11日,「登録第5276520号商標の商標登録は取り消す。」とする審決(以下「審決」という。)を下しました。
そこで、納得できないXが特許庁の審決を取り消すことを求めて出訴したというのが今回の事件の概要です。

2.登録商標の取り消しについての裁判所の判断

まず、裁判所もXが「本件商標の登録出願の日前1年以内に,被告ないし被告との間で日本における輸入代理店契約を締結している者から,日本における独占販売権を付与されていたわけでいないものの,原告及び原告代表者と被告との間には,継続的な取引により慣行が形成され,原告及び原告代表者は,日本国内における被告の商品の販売体系に組み込まれるような関係にあった者とみることができるから,商標法53条の2所定の「当該商標登録出願の日前1年以内に代理人若しくは代表者であった者」に該当するということを認定しました。
そのあと、「正当な理由」の有無についての判断が続きます。
「前記の事実を基礎として,商標法53条の2所定の「正当な理由がない」ことの有無について,以下のとおり,判断する。
原告は,本件商標出願をした「正当理由」に係る事情として,「本件商標の価値を高めるため,宣伝活動を行い,多額の宣伝広告費用を投じて,これにより,日本国内における本件商標の価値が高まったこと」のみを挙げている。証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告が,被告の製造するゴルフボール(「クロマックスボール」)の日本国内における販売を促進するため,雑誌等に広告を掲載するなどの宣伝広告活動を行ったことが認められるものの,原告がその費用として負担した金額,規模及び上記宣伝広告活動によって,本件商標が,上記ゴルフボールを表示するものとして,商標の価値を高めた事実は認定できない。
そうすると,原告は,日本における輸入代理店契約を締結している者から,日本における独占販売権を付与されていたわけではなく,原告及び原告代表者が,被告との間で,継続的な取引を続けていたとの事実があるにすぎないこと等の諸事実を総合すると,本件商標登録は,「正当な理由がないのに,その商標に関する権利を有する者の承諾を得ないで」されたものであると認定するのが相当である。」

3.商品の輸入販売と商標登録をする際に気を付けたいこと

以上のように、輸入業者が単に宣伝販売を行っていただけの場合、商標登録出願をする「正当の理由」が認められることは難しいのではないかと思います。
判決は出願商標がその指定商品を表示するものとして商標の価値を高めたという事実が認定出来ればよいというようにも読めますが、そのためにどの程度の広告費用を費やせばよいのか,また必要とされる広告の規模等も具体的には指摘されていないのですが、かなりの金額及び規模のものを展開しなければならないように思えます。
もし、輸入品の商標を自社で出願しようという場合は、日本における独占販売契約を締結したり、商標の取り扱いまで詳細に契約で定めておいたりすることが肝要です。

 

 

この記事は、知財高判平成24年1月19日(平成23(行ケ)10194)を元に執筆しました。