商標の中には、そもそも商標登録できない商標というものがあります。
その代表的なものが、地域名(例.大阪)と商品やサービスの普通名称(例.ケーキ)が組み合わされた商標(例.大阪ケーキ)です。
また、もし何らかの手違いでこのような商標が登録されたとしても、上記の例で他社が大阪ケーキの商標を使用していていたとしても、商標登録の効力はその他社の使用には及ばないとされています。

1、地域団体商標と商標法の制限規定との関係

このように、原則として商標登録できない地域名+商品名という構成の商標について、商標登録が認められる場合があります。
これが地域団体商標です。
地域団体商標の制度は、地域経済活性化のために地域ブランドの適正な保護を目指して創設された制度です。
この地域団体商標として認められると、地域名+商品名という商標も商標登録できるのですが、他方で、地域名+商品名という商標には商標登録の効力が及ばないとする法律の規定には例外が定められていません。
そこで、地域団体商標と商標法の制限規定との関係が問題とされます。

2、商標権侵害事件の概要

事件の概要は前回の記事を参照していただくとして、簡単に言うと「博多織」の地域団体商標の商標権者が、「博多帯」の商標の使用差し止め等を求めた事件です。

前回の記事

博多織と博多帯~商標登録の類似性判断・博多織事件1~

3、地域団体商標と商標法の制限規定との関係についての裁判所の判断

本件商標は,地域団体商標であるところ,地域団体商標(商標法7条の2)は,地域産業の活性化を図るための地域ブランドの保護の観点から,地域名と商品名又は役務名とからなる商標について,登録要件を緩和するものである。
すなわち,地域における複数の事業者等が,当該地域の特産品に,当該地域名と商品等の普通名称を組み合わせた標章を付して商品を売り出すことがあるが,従前,このような標章については原則として商標登録を行うことができず(同法3条1項3号),同標章について,商標登録を受けるためには,商標法3条2項によりそれが特定の出所を示すものとして需要者に認識される必要があった。
しかし,上記のような地域ブランドが,商標法3条2項が規定する特別顕著性の要件を充足することは困難なことが多く,そのような識別性を獲得するまでの間,他の地域の事業者等が地域ブランドの名称を便乗使用することを排除できないなど弊害が多かったから,地域産業の振興の観点から,同法3条2項が規定する特別顕著性を獲得する以前の地域ブランドについて,所定の要件の下で特別の商標登録ができるように,平成17年の商標法改正によって新たに規定を設けたのが地域団体商標の制度である(産業政策説。甲26,27,弁論の全趣旨)。
そして,地域名と商品名又は役務名とからなる商標は,一般に独占に適さないと考えられるため,団体商標制度の枠組みが採用され,組合等の一定の団体が構成員に使用させる商標についてのみ,地域団体商標として登録が認められたものである。
加えて,地域団体商標の出願人となり得るのは,事業協同組合等の特別法により設立された組合であって,設立根拠法上,構成員の加入の事由が保障されているものに限られる(同法7条の2第1項柱書)。
これは,前記のとおり地域名と商品名又は役務名とからなる商標は,本来独占に適さないことが考慮されたものである。
本件の争点を検討するに当たっては,地域団体商標の上記制度趣旨等を考慮して判断するのが相当である。

―中略―

なお,被控訴人は,本件商標は地域団体商標とされたものの識別力はなく被控訴人標章は普通名称であって識別標識ではないから,両者を上記手法で対比することは無意味であると主張する。
しかし,地域団体商標権も商標権の一種であり,商標権と同じくその侵害に対しては損害賠償請求も差止請求も認められる点で効力が同じであり,その商標の類否も前記のとおり同様の手法で判断すべきである。よって,この点に関する被控訴人の主張は採用できない。

―中略―

(1) 地域団体商標の制度趣旨につき,不正競争防止法2条1項13号でも規制し得る産地等の誤認行為を典型的に規制する制度であると理解する見解がある(行為規制定型化説)。
この見解によれば,地域全体の事業者にとってのブランド保護が地域団体商標制度の目的と解することから,当該地域の事業者(地域内アウトサイダー)が用いる限り,当然に商標法26条1項2号に該当すると解することになるとされる(甲27)。
しかし,地域団体商標の制度趣旨は,前記のとおり,地域産業の振興の観点から,商標3条2項が規定する特別顕著性を獲得する以前の地域ブランドについて,所定の要件の下で特別の商標登録ができるようにしたものと理解するのが相当であり(産業政策説),このような理解によれば,前記地域内アウトサイダーが当該地域団体商標を使用する場合にも,当該使用態様が自他商品の出所識別機能を害するものである場合は,商標法26条2項2号に該当するということはできないことになる。
地域団体商標制度の導入に際しては,地域団体商標として登録される地域の名称及び商品の名称等からなる商標は,当該地域において当該商品の生産・販売,役務の提供等を行う者が広く使用を欲する商標であり一事業者による独占に適さない等の理由で原則として登録をみとめないこととされていたところ,地域団体商標が登録されたことにより,同種の商品を扱う者が商品の産地や原材料名等の取引上必要な表示を全く付せなくなれば,これらの者の営業活動が過度に制約されるおそれがあり,地域団体商標に係る商標権の効力が他の事業者による取引上必要な表示に対して過度に及ばないようにする必要があることから,商標法26条1項を適用することにして特別規定を設けていない。
さらに,実質的にも地域アウトサイダーの使用とはいえ,先使用権の要件を除き通常の商標権と同一である地域団体商標権を侵害する場合があり得ることからすれば,後者の理解が相当である。

4、判決からの教訓

このように、地域団体商標においては商標法の制限規定は及ばないのだと判断されました。
特に、次の点が重要です。

なお,被控訴人は,本件商標は地域団体商標とされたものの識別力はなく被控訴人標章は普通名称であって識別標識ではないから,両者を上記手法で対比することは無意味であると主張する。
しかし,地域団体商標権も商標権の一種であり,商標権と同じくその侵害に対しては損害賠償請求も差止請求も認められる点で効力が同じであり,その商標の類否も前記のとおり同様の手法で判断すべきである。よって,この点に関する被控訴人の主張は採用できない。

せっかく苦労して取得した地域団体商標なのに、その効力が著しく制限されるのでは、何のための制度なのか、地域ブランを保護しようと趣旨はどこへ行ったのかということが、この判断の根底にあると思われます。
この判決により、地域団体商標も通常の登録商標の様に類似判断がなされることが示されました。
これから地域団体商標に類似する商標を使用することは、かなりのリスクを伴うことになりそうですので、注意が必要です。

 

 

この記事は福岡高判平成26年1月29日(平成25年(ネ)13号)を元に執筆しております。