無事に商標登録できても、その商標権を行使することが権利の濫用として許されないと判断されることがあります。

そこで、今回は、博多織事件を例に、どのような場合に権利の濫用と指摘されるのかを見ていきたいと思います。

1.事件の概要

事件の概要は「博多織」という地域団体商標を有する商工組合が、「博多帯」の商標を使用していた事業者に対してその使用の差し止め等を求めたものです。
商標の使用差し止めを求められた事業者は、いくつかの反論を主張しました。
そのうちの一つが今回取り上げる権利の濫用の主張です。

2.商標権の主張が権利の濫用にあたるか否かの裁判所の判断

地域団体商標は、地域名と商品又は役務からなる商標であり、本来独占に適さないことから、地域団体商標の出願人となるのは事業協同組合等の特別法により設立された組合であって、設立根拠法上、構成員の加入の自由が保障されているものに限られるとされる。
すなわち、上記出願人足り得る組合は、設立準拠法において、正当な理由が無いのに、構成員たる資格を有するものの加入を拒み、又はその加入につき現在の構成員が加入の際に付されたよりも困難な条件を付してはならない旨の定めのあるものに限られている(商標法7条の2第1項)。
この点、控訴人Yは①被控訴人XがYに加入すると、Yの民主的な運営が阻害され、中小企業事業者の事業の改善発達という組合設立の目的が実現しなくなる、②YにXが加わると、XがAグループに属するため、Yが独占禁止法の適用除外組合ではなくなり、Yの存在意義そのものが危うくなる、③Aの販売方法について従来から「押しつけ商法」との社会的非難を受ける等評判が悪くXの加入を認めた場合Yの社会的信用が失墜し、Yにとって打撃となる虞があると主張する。
しかしながら、①Xはその規模からして中小企業団体組織法5条の「中小企業」該当すること、②そもそもYの定款第9条では組合員の資格を中小企業に限定していないこと、③Yは商工組合であるところ、商工組合は「法律の規定に基づいて設立された組合」(独占禁止法22条)に該当しないから、独占禁止法22条は商工組合には適用されず、仮にXがYに加入しても独占禁止法の適用除外組合でなくなるとは言えないこと、④Yの指摘するAグループの評判についてもそれを認めるに足りる証拠はなく、仮にそのような評判があるとしても、特段YにとってXがYに加入することの妨げになるとは言えないことが認められる。
よって、YがXの加入を拒否したことに正当な理由が認められるということはできない。

―中略―

以上によれば、①Xが継承した旧Xにおいて本件商標登録以前から本件商標を使用していたこと、②YのXに対する前記警告(注:本記事では省略)は理由が無いこと、③Yは本来Yへの自由加入が保障されていることを前提として地域団体証登録されたにもかかわらず、Xの組合加入の申し出に対して、本件商標権に基づいて又は本件商標が周知著名商品等表示に該当するとして権利行使をすることは権利濫用に該当し許されないというべきであって、Aの製造販売に加担しているそのあまりのXに対する関係でも同様に権利乱用に当たるものと解される。

3.これから商標登録する際に

本件は地域団体商標という特殊な商標登録が問題となっています。
地域団体商標は地域ブランドを展開する上で、非常に有用な制度ですが、上記判決の内容にある通り、当該団体に加入しようしたい者に対して開かれている必要があります。
加入の自由を確保した上で、なお、団体に好ましくないものの対処をどうするのか、地域ブランドの在り方そのものを検討する必要があります。