前回は、商標の類似性判断に関して、商標の外観(見た目)が類似するとは、どのような場合をいうのかという点についてある事例を参考にして判断の仕方を見ました。

前回の記事:

どくろマークの商標の類似性が争われた事例①

今回は同じ事件を参考に、裁判上、両商標が非類似であるという主張自体が訴訟上の信義則に反し退けられることもあるという点についてみていきたいと思います。

1.訴訟上の信義則違反による主張の制限

本訴訟に関しては、訴訟の提起前に、両商標の類似性を争点として、登録商標の無効審判が請求されていました。
この審判およびその取消訴訟で類犠牲の判断が示されているにもかかわらず、再度、本訴訟で非類似の主張が許されるのか、それとも信義則に反し許されないのかが争われたのです。

2.裁判所の判断

裁判所は次のように判断して、本訴訟での非類似の主張は訴訟上の信義則に反して許されないと判断しました。

(1) 控訴人標章と被控訴人商標との類否

ア 控訴人標章1と被控訴人商標1との類否

(ア)a 前記第2の2⑸において認定した事実及び証拠(甲10,甲11)によれば,①控訴人と被控訴人Yとの間における控訴人標章1についての別件無効審判請求事件において,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否(商標法4条1項11号)が主要な争点となったこと,②控訴人標章1についての別件審決は,請求人である被控訴人Y及び被請求人である控訴人の各主張を踏まえながら上記争点について検討した上で,控訴人標章1は,被控訴人商標1に類似する商標であり,商標法4条1項11号に該当するものである旨認定し,控訴人標章1の指定商品中,控訴人標章1についての別件審判の請求に係る指定商品についての登録を無効とするという結論を導いたこと,③控訴人と被控訴人Yとの間における控訴人標章1についての別件審決取消訴訟においても,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否が争点となり,控訴人標章1についての別件判決は,控訴人標章1についての別件審決の類否判断の誤りを指摘する控訴人主張の審決取消事由及び被控訴人Yの反論を踏まえつつ,控訴人標章1についての別件審決の前記認定の当否を検討した上で,同認定に誤りはなく,控訴人主張の審決取消事由はすべて理由がない旨判断し,控訴人の請求を棄却したこと(なお,控訴人標章1が被控訴人商標1に類似するとの判断において,控訴人標章1についての別件審判の請求に係る指定商品のみに限定されるような事情は認められない。),④控訴人標章1についての別件判決及び控訴人標章1についての別件審決は,いずれも確定したことが認められる。

他方,本件訴訟は,被控訴人Yが,自ら代表取締役を務める被控訴人会社と共に,控訴人に対し,控訴人は,被控訴人商標に類似する控訴人標章を付した洋服等を販売するなどして控訴人標章を使用したとして,そのような行為の差止め等を求めるものであり,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否は,争点の1つとなっている。

b⒜ 本件訴訟は,いわゆる侵害訴訟であり,民事訴訟であるから,特許庁による審決の取消しを求める行政訴訟である控訴人標章1についての別件審決取消訴訟とは,明らかに訴訟物が異なる。

⒝① もっとも,前記aのとおり,本件訴訟及び控訴人標章1についての別件審決取消訴訟は,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否という争点を共通にしている。② 訴訟の当事者についてみると,控訴人標章1についての別件審決取消訴訟が被控訴人Yと控訴人との間の訴訟であったのに対し,本件訴訟は,被控訴人ら,すなわち,被控訴人Y及び被控訴人会社と,控訴人との間の訴訟である。

しかしながら,被控訴人会社は,被控訴人Yが代表取締役を務める有限会社であり,また,被控訴人Yを商標権者とする被控訴人商標1の独占的通常使用権者であることから,被控訴人商標1に関する利害関係については,被控訴人Yと一致しており,現に,本件訴訟においても,被控訴人Yの共同訴訟人として訴訟を追行しており,同じ内容の訴訟行為に及んでいる。

上記の点に鑑みれば,本件訴訟も,実質においては,被控訴人Yと控訴人との間の訴訟と同視できるというべきである。

⒞ 以上によれば,本件訴訟及び控訴人標章1についての別件審決取消訴訟のいずれも,実質上,被控訴人Yと控訴人が,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否を争ったものといえる。

c この点に関し,本件訴訟における控訴人の主張の骨子は,前述したとおり,控訴人標章1及び被控訴人商標1の外観につき,「ジョリー・ロジャー」又は「頭蓋骨と骨のハザードシンボル」から由来する「基本的構図」という概念を掲げ,「基本的構図」が既に出所識別力を有しないものとなっているとして,それ以外の構成要素によって類否を決すべきであるというものであるのに対し,控訴人商標1についての別件審決取消訴訟における控訴人の主張の骨子は,そのような概念を用いず,頭蓋骨及び骨片の位置,眼窩部の形状などといった両商標間の9つの相違点を個別に挙げるというものであり(甲11),両主張の内容に差異があることは,明らかである。

しかしながら,上記差異は,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否について異なる観点から検討したことによるものにすぎず,控訴人が,いずれの訴訟においても,控訴人標章1と被控訴人商標1との非類似を主張している点に変わりはない。そして,本件訴訟と控訴人標章1についての別件審決取消訴訟との間に,控訴人標章1及び被控訴人商標1の外観など類否判断の前提となる主要な事実関係について相違があるとは,認められない(前述したとおり,特定の指定商品についてのみ妥当するような判断もない。)。

(イ)a 以上によれば,控訴人標章1と被控訴人商標1とが非類似であるという控訴人の本件における主張は,実質において,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否判断につき,既に判決確定に至った控訴人標章1についての別件審決取消訴訟を蒸し返すものといえ,訴訟上の信義則に反し,許されないものというべきである(最高裁昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号799頁,同昭和52年3月24日第一小法廷判決・集民120号299頁,同平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1147頁参照。)。

b 控訴人は,①審決取消訴訟と侵害訴訟は,各自の制度目的を有する別個の訴訟であり,主張,立証の内容が異なれば,判断も異なるものになり得ることは,当然に予定されている,②控訴人標章1についての別件審決取消訴訟においては,基本的構図の慣用化及び控訴人標章の周知性等の取引の実情については,ほとんど主張,立証されていなかったとして,控訴人による前記非類似の主張は,控訴人標章1についての別件審決取消訴訟を蒸し返すものとはいえない旨主張する。

しかしながら,前述したとおり,①両訴訟は,訴訟物を異にする別個のものではあるが,いずれも,実質上,被控訴人Yと控訴人が,控訴人標章1と被控訴人商標1との類否を争ったものといえる。また,②控訴人は,本件訴訟において,控訴人標章1についての別件審決取消訴訟における主張とは異なる観点から,控訴人標章1と被控訴人商標1との非類似を主張しているにすぎず,両訴訟の間に,類否判断の前提となる主要な事実関係について相違があるとは,認められない。

以上によれば,控訴人の前記主張は,採用できない。

 

3.訴訟上の信義則違反について

上記の様に、本事件では裁判所は両商標が非類似であるという主張を紛争の蒸し返しであると判断しました、

本訴訟とその前に提起された無効審決取消訴訟とでは①当事者及び②訴訟物が異なるにもかかわらず、その内容を詳細にみて、両訴訟は争点が共通し、実質的には同一当事者間のものと同視できると判断したことに特徴があります。

このように無効審決取消訴訟と侵害訴訟とでも実質面を重視されることで主張が退けられることもあるということを示すので、注意が必要です。

 

 

この記事は知財高判平成26年12月17日(平成26(ネ)10005)を元に執筆しています。