商標法4条1項7号には「国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であって営利を目的としないもの又は公益に関する事業であって営利を目的としないものを表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」は商標登録を受けることができないと定められています。
商品やサービスの提供主体が自治体などの公共機関であると消費者が誤認しないように、国や地方公共団体のマークと紛らわしい商標は、登録させないということです。

しかし、地方の1市町村の市章などと似ているからと言って、すべての商標登録を認めないというのは、公正な産業の発達を目的とする商標法の理念に沿うものとはいえません。

そこで、一定の歯止めとして、その公共団体のマークが「著名」であることを上記条文は求めています。

では、どのような場合に「著名」と認められるのか。
今回はそのことが争われた裁判例をご紹介します。

1、商標登録出願された商標と、宮崎県日南市の市章

ダイワ対日南市章

2、商標法4条1項6号の「著名」性についての特許庁の主張

特許庁は、日南市の市章の著名性について次のように主張しました。

「日南市章の制定については,旧日南市が昭和25年12月20日に,新日南市が平成21年11月2日に,それぞれ告示を行っており,各告示の日から効力が生じている。
日南市章は,旧日南市の前記告示により,昭和25年12月20日に一般に知らしめたとみなすことができる。
そして,日南市章は,同市を表示するものとして,同市の公共施設,ホームページなどに使用され,また,これに接する需要者においても,同市を表示するものとして親しまれてきたものである。
また,日南市は,平成21年11月2日に,告示第183号により市章を中央に表示した市旗も併せて制定しており,市庁舎など公共的な施設に市旗を掲揚するとともに,大きなイベントの際には,日南市の関与を知らしめるように,メインとなる舞台や調印式などの背景に市旗が掲げられている。
そして,日南市の母体に新旧の変遷があったとしても,日南市章は,昭和25年の制定以降現在に至る約60年の間使用された結果,日南市はもとより宮崎県内外において周知著名なものとなっているということができる。」

3、特許庁の主張に対する商標登録出願人の反論

「特許庁は,日南市章は,平成21年11月2日に告示されたものであり,告示は広く一般に知らしめるものであることから,「著名なもの」として扱うのが相当であると判断した。
しかしながら,一般国民がこれを知ることになったかは事実の問題であり,告示の性質,目的と著名になったかどうかは同じではない。
本件出願商標が商標法4条1項6号に該当するとの判断は,同号の解釈を誤ったものである。」

4、商標登録を認めるか否かについての裁判所の判断

「(特許庁の)審決は,「公的な機関である地方自治体を表彰するために用いられる都道府県、市町村の章は、制定時に告示が行われるものであり、そして、告示は、広く一般に知らしめるものであることから、商標法第4条第1項第6号にいう「著名なもの」として扱うのが相当である」として,日南市章の実際の著名性について認定することなく,「著名なもの」と認めた。
しかしながら,商標法4条1項6号は,「国若しくは地方公共団体……を表示する標章であって著名なものと同一又は類似の商標」と規定しているから,同号の適用を受ける標章は「著名なもの」に限られると解すべきであり(告示された国又は地方公共団体を表示する標章が当然に著名なものとなるわけではない。),著名であるか否かは事実の問題であるから,告示されたことのみを理由として「著名なもの」とした審決の判断手法は,是認することができない。
そして,同号は,同号に掲げる団体等の公共性に鑑み,その信用を尊重するとともに,出所の混同を防いで取引者,需要者の利益を保護しようとの趣旨に出たものと解されるから,ここに「著名」とは,指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていることを要すると解するのが相当である。」

5、これから商標登録する際に

商標法4条1項6号の「著名性」に関して、特許庁は法令にのっとり告示しているのだから当然著名であるかのように主張していますが、この主張は裁判所も認めなかったように、やはり無理があると思います。
これからは、単に告示されているから「著名性」が認められるとは言えなくなったので、特許庁も個別の指定商品又は指定役務ごとにその市章が著名性を備えているのかを審査することになるでしょう。
これに対応して、出願人の側でも、拒絶されないようにするためにはその商品等から連想されうる市章を調査して出願することが求められるとことになります。
ただ、裁判所の判示する「ここに「著名」とは,指定商品・役務に係る一商圏以上の範囲の取引者,需要者に広く認識されていることを要する」という要件を満たす市章等は余りないとも考えられるので、先登録商標に類似するものが無ければ、ひとまず出願し、特許庁から拒絶理由が通知されてから、引用された市章は「著名」ではないと反論することでも足りるのではないかとも思われます。
どちらにするかは、その商標を用いる商品化の時期等を見極めたうえで個別に考えることになるでしょう。

 

 

この記事は知財高判平成24年10月30日(平成24年10月30日)を元に執筆しています。