続・当初問題なく登録された商標が後々無効とされた事例~「数検」事件~

引き続き、無事、登録された商標が登録後に生じた理由により商標登録が無効とされることもあるというお話です。
前回は残念ながら登録を無効とされた事例を紹介しましたが、今回は登録が維持された事例を紹介します。

前回に記事はこちら
当初問題なく登録された商標が後々無効とされた事例~「漢検」事件~

1、問題となった商標登録

問題となった商標登録(以下「本件商標」といいます)は,「数検」及び「数学検定」の文字を上下二段に横書きしてなり,第41類「数学に関する資格認定試験の実施算数・数学検定に関する電子書籍の提供」を指定役務とするものです。
本件商標の商標権者は原告として登録されています。
被告(請求人)は,特許庁に対し,本件商標の登録を無効にすることを求めて審判の請求をし,特許庁は登録を無効とするとの審決をしました。

2、商標登録の無効に関する特許庁での判断

(1)

被告が行う実用数学技能検定事業は,公的資格として全国的に定着し,遅くとも平成15年ころには,実用数学技能検定に係る事業の略称と認められる本件商標についても周知著名なものとなっていた。
本件商標を構成する「数検」及び「数学検定」の商標が,全国的に周知となった被告の実用数学技能検定に係る事業に使用され,かつ,被告の活動が社会的な影響力を有していたことなどからすると,本件商標は,被告が行う実用数学技能検定試験の実施のみならず,その余の実用数学技能検定に係る事業において,被告によって使用されるべき性格の商標になったとみるのが相当である。

(2)

被告は,旧民法34条に基づく公益法人として設立された財団法人であるところ,原告は,被告の理事長を退任後,被告の名称と酷似した「数検日本数学検定協会」(住所:原告に同じ。「『数検』日本数学検定協会」,「数検財団/日本数学検定協会」,「基礎力財団」又は「『数検』民営化準備委員会」とも表記している。)を創設した上,被告が行っていた事業と同様の事業を開始し,自己が本件商標権を有することを奇貨として,被告の業務に係る役務等を表示する商標として周知著名になっている商標と同一の商標を使用し,かつ,「『数検』は民営化いたしました」の見出しのもと,「『数検』は平成23年7月より民営団体で行っていくことになりました。現在の財団法人は法律改正で,平成20年12月から特例民法法人と称する団体になっています。現在の特例民法法人は公益団体ではありません。」,「(注意)特例民法法人は法律改正で,平成25年11月末をもって整理されます。*『数検』は民営の日本数学検定協会が継続して実施して参ります。したがいまして,平成23年10月から特例民法法人の行う数学の検定合格者には,『数検』合格資格が与えられなくなりますので注意してください。」,「*民営化後の団体表示は次の通りです/数検財団/日本数学検定協会/住所((注)原告に同じ)」等が記載された「お知らせ」を,平成23年7月ころ,2回にわたり,被告が実施する数学検定の団体受検校の窓口である数学担当の先生に対し送付した。
「お知らせ」の内容を知った全国の数学検定の受検生,保護者及び数学担当の先生は,同年9月ころには,大きく混乱した。
「数検財団/日本数学検定協会/『数検』民営化準備委員会」が,被告が実施する数学検定の受検生等に対し,恰も被告が民営化され,『数検』が公的資格ではなくなるのかのような趣旨のお知らせを通知したこと,自らは恰も被告であるかのように,「財団法人 日本数学検定協会」と酷似する「数検財団/日本数学検定協会」の名称を使用していること,被告の登記簿上の住所を使用していること(判決注:被告は,平成23年8月27日,主たる事務所を移転した。),5回の検定日(団体受検)は被告が実施する団体受検検定日にすべて重なっていること,被告が設立当初から使用してきた登録商標を引き続き使用していること,日本数学検定協会(数検)が分裂したようにみえることが,全国的に知れ,被告に対して,悪い印象が,少なからず植え付けられたとみるのが相当である。
このことは,被告が行う公共性を有する事業を信頼し,それに依拠して参加する国民一般(受検生)や数学検定資格を受け入れている社会に影響を与えたとみるのが相当である。
してみると,上述した社会的混乱とともに,被告に蓄積された社会的信用が,少なからず失墜したといわざるを得ない。

(3)

原告は,本件商標を平成16年1月6日に出願し,同年6月9日で文部科学省から,「財団からX理事長に商標料を支払うことがないよう措置を図り,対外的に分かりやすくすること」等の改善を要する事項について通知を受けているところ,被告との間で,被告が原告に対して支払うべき商標パテント料について契約を結んでおり,平成23年4月24日に,「財団法人である被告が検定に関わる資料,問題,書籍,HPその他の募集活動に伴う表示物等に,原告所有の登録商標を使用しないこと」等を記載した誓約書を交わした。これらによる被告への社会的信用の失墜に加え,被告においても,円滑な事業遂行に支障を来すおそれが発生し,社会的混乱が生じたものと認められる。
原告は,平成23年9月15日に,被告宛てに,本件商標と同一又は類似の商標の使用に対する警告書を送付しているが,原告が,周知著名となった商標を保有すること自体に問題なしとはいえないのに加え,公益法人として,使用による信用の蓄積がある被告に,その著名な検定事業の略称と認められる本件商標と同一又は類似の商標の使用に対して警告を求め,その円滑な事業の展開を阻み,社会に重大な影響を与えることは認めがたい行為である。

(4)

以上の状況を総合勘案すれば,本件商標は,平成23年9月27日には,商標法4条1項7号に該当するものとなった。
本件商標は,商標登録がされた後において,同号に該当するものとなったから,同法46条1項5号の規定に基づき,その登録を無効とすべきものである。

3、商標登録を無効とするとした特許庁に対する裁判所の判断

原告は,
①審決には,被告が本件商標を取引者又は需要者に広く知らしめた旨認定した点及び被告が行う実用数学技能検定が公的資格である旨認定した点において,事実認定の誤りがある,
②後発的無効として商標法4条1項7号に該当するのは,商標の構成自体に公序良俗違反があることとなった場合に限定されるべきであり,そうでない場合であっても,同項6号,19号よりも公益性の高い事由でなければ公序良俗違反に当たらないと解すべきであるにもかかわらず,審決は,商標登録後,その登録後の事情いかんによっては,特定の者に独占させることが好ましくなった商標等について,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害すると評価しうる場合には同項7号に該当するとした上,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根拠に,本件商標の登録が同号に該当する旨判断しており,法適用に誤りがある,
③審決が,甲19の内容を根拠として,本件商標登録が公序良俗違反であるとした判断は誤りである
として,審決の本件商標に関する商標法46条1項5号,4条1項7号該当性判断には誤りがあると主張する。
そこで,以下,検討する。

(1) 認定事実

証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

原告は,数学の検定制度を開発し,平成2年に「数学能力検定」と称して,受検者を募集し仮検定を実施した。平成4年には任意団体である「日本数学検定協会」が発足し,第1回全国数学検定試験が行われた。同検定試験は「数検」とも称され,その受検者は,平成6年には5500人(団体受検校55校),平成7年には2万6000人(団体受検校160校),平成8年には4万0500人(団体受検校630校)に達した。

被告は,平成11年7月13日,当時の文部大臣から,公益法人(財団法人)としての設立を許可され,原告は被告の理事(理事長)となった。被告設立後,被告の実施する実用数学技能検定の受検者数は,平成11年は延べ約9万4000人(団体受検校2500校),平成15年は延べ約22万3000人(団体受検校8300校),平成18年以降は延べ30万人以上(団体受検校1万校超)となり,「数検」,「数学検定」の標章もより広く知られるようになった。
同検定試験の結果は,全国の大学・短大で入試優遇や高校の入試優遇や単位認定制度等に用いられることもある。
なお,被告の発行した試験問題やパンフレット類の多くには,「数検」等が被告の商標である旨が記載されていたが,後記オの文部科学省による「実地検査の結果について」と題する通知の中で,改善を要する事項の1つとして,あたかも被告が商標を保有しているかのような表記がなされている点を指摘されたことから,被告は同省に対し,「改善報告書」において,「数検」等は登録商標である旨の表記に変更することを報告している。

原告と被告とは,平成11年7月17日,被告の理事会の議決に基づき,原告所有の商標や特許を被告が活用する場合の使用料について,被告が原告の商標や特許を活用する場合,一定の割合でパテント料を支払うこと,契約期間は平成11年7月から10年とすること等を内容とする「パテント料に関する契約」を,同年8月4日付けで締結した(ただし,平成11年時点では,本件商標は商標登録されていない。)。
また,原告と被告とは,平成21年2月25日付けで「平成21年商標パテント料についての契約」を,平成23年3月9日付けで「平成22年商標パテント料についての契約」をそれぞれ締結し(ただし,平成23年時点では,原告は被告の理事を退任している。),被告は,これらの契約に基づき,平成11年分から平成22年分までのパテント料合計2億5553万3000円を原告に支払った。

原告は,平成16年1月6日,本件商標の登録を出願し,平成18年10月13日,登録がなされた。
出願過程において,本件商標の登録は,「公的な機関が主催する数学に関する検定試験の一つであるかのように認識,理解される『数検』『数学検定』の文字を二段に書してなるところ,これを一個人である出願人が自己の商標として採択使用することは,検定試験に対する社会的信頼を失わせるおそれがあり,穏当ではありません。・・・商標登録出願に係る商標は,商標法第4条第1項第7号に該当します。」との理由で拒絶査定されたところ,原告が,被告の理事長であり数学に関する検定試験の公的機関であるから,検定試験に対する社会的信頼を失わせるおそれはないことを記載した意見書,及び,被告の理事会の決議により原告が商標権の取得を認められている旨が記載された理事会議事録を提出したことから,審決において,本件商標を,原告が登録商標として確保することが穏当でないとは,いい得ない旨判断された。

文部科学省は,平成16年6月9日,被告の理事であった原告宛てに,「財団法人日本数学検定協会に対する改善事項について」と題する通知を行い,「財団からX理事長に商標料を支払うことがないよう措置を図り,対外的に分かりやすくすること」等の改善を要する事項を通知した。
また,同省は,平成21年6月22日付けで,「実地検査の結果について」と題する通知を行い,商標使用に係る被告と原告との取引について,その必要性,適切性等の検証を行い,今後の対応方針の明確化を行うこと等を求めた。
被告は,理事会において,原告を退席させた上で本件商標を含む商標の取扱い等について審議し,同省に対し改善報告書(同年9月11日付け)を提出したが,商標料の金額は妥当であり,平成23年を目処に段階的に減額するよう商標権者と交渉する旨の内容であったことから,同省より,商標料に係る適正規模について厳正に審議し,その明確化を図り,可及的速やかに適正化すること,商標の使用継続や被告への移管等の是非も含め,引き続き審議すること等を求められた。
そこで,被告は,理事会において更に審議し,原告が被告の理事を退任すること,原告の有する商標を譲り受ける方向で検討すること等を決議し,同年11月27日,同省に報告した。

原告は,平成22年1月21日,被告の理事を退任した。
原告と被告とは,同年5月ころ,原告名義で本件商標を含む商標の登録がなされていることを確認し,原告が被告に対し,これらを無償で譲渡すること等を内容とする合意書を作成したが,この合意書は,訴外会社が所有する不動産を被告に譲渡するとともに,被告が訴外会社の債務を引き受けることを監督官庁が承諾することが効力発生要件となっているところ,監督官庁の承諾が得られないため,効力が発生していない。
被告は,同年10月1日,上記合意書に沿った解決を意図して,原告を相手方とする調停の申立てをしたが,商標の価値に関する認識の違いが大きく,合意に至らなかった。

一方,原告は,被告の理事を退任後,被告の名称と類似した「数検日本数学検定協会」(「『数検』日本数学検定協会」,「数検財団/日本数学検定協会」,「基礎力財団」又は「『数検』民営化準備委員会」とも表記している。)なる団体(住所:原告に同じ)を創設した上,被告の事業と同様の事業を開始した。
そして,「数検財団/日本数学検定協会」が実施する5回の検定日(団体受検)は,被告が実施する団体受検検定日に重なっていた。
数検日本数学検定協会は,平成23年7月吉日付けで,数学担当の先生に対し,「『数検』は民営化いたしました」,「『数検』は平成23年7月より民営団体で行っていくことになりました。現在の財団法人は法律改正で,平成20年12月から特例民法法人と称する団体になっています。現在の特例民法法人は公益団体ではありません。」,「(注意)特例民法法人は法律改正で,平成25年11月末をもって整理されます。*『数検』は民営の日本数学検定協会が継続して実施して参ります。したがいまして,平成23年10月から特例民法法人の行う数学の検定合格者には,『数検』合格資格が与えられなくなりますので注意してください。」,「『数検』『数学検定』『suken』『児童数検』『日本数学検定協会』は本協会の商標です。『数検』『suken』は国際商標登録機関WIPOに登録されています。『数検』は東京葛飾が発祥地です。」などと記載された「お知らせ」を送付した。
また,原告が創設した「数検財団/日本数学検定協会/『数検』民営化準備委員会」は,遅くとも平成23年7月半ばより前に,中学校の数学担当の先生に対し,同様の内容が記載された「お知らせ」を送付した。

全国の数学担当の先生,受検生,保護者から,平成23年9月1日から27日までに,被告に対し,間違いやすい,混乱している等の多数の問い合わせがあり,被告は,多数の電話対応等を行った。

原告と被告は,平成23年4月24日に,「平成11年8月4日に原告と被告間で交わされたパテント料に関する契約について,両者は平成23年6月30日をもって本契約を解約し,同契約を終了することを確認する。被告は平成23年1月から6月までの半年分の商標使用料を原告に支払う。以後,原告は被告に対し商標料の支払を求めないことを誓約する。被告は検定に関わる資料,問題,書籍,HPその他の募集活動に伴う表示物等に,原告所有の登録商標を使用しないことを誓約する。」旨が記載された誓約書を交わした。

原告は,被告に対し,「被告の本件商標と同一又は類似の商標の使用は,本件商標権を侵害する。」旨の警告書を,平成23年9月15日,内容証明郵便物として差し出した。

被告は,平成23年10月27日付けで,原告を債務者として,「日本数学検定協会」なる表示の使用禁止を求めて仮処分命令の申立てをした(この仮処分申立事件は和解により終結した。)。
また,原告は,被告を相手方として,同年11月29日付けで,本件商標を含む商標の使用禁止等を求める訴えを提起し,被告は,原告を相手方として,支払済みパテント料の不当利得返還等を求める反訴,及び,支払済み不動産賃料の不当利得返還等を求める別訴を提起した。

(2) 判断


上記(1) 認定の事実によれば,本件商標又はこれに類似する標章は,被告が財団法人として認可を受ける前にも,任意団体である日本数学検定協会の数学検定試験に使用されており,財団法人(被告)の設立年度には受検者数が約9万4000人(団体受験校2500校)に達していたこと,被告の設立後,被告の実用数学検定試験の受検者数が大幅に増加し,本件商標もより広く知られるようになったが,原告は,平成22年1月21日に退任するまで被告の理事(理事長)であったこと,原告と被告とは,平成11年,平成21年及び平成23年に商標のパテント料に関する契約を締結し,被告が原告に対し,パテント料の支払(本件商標登録前の分も含む。)を行ったこと,原告が被告の理事を退任した後も,被告が,合意書や誓約書において,原告が本件商標権を有することを前提としていることが認められる。
すなわち,本件商標は,当初,原告によって使用されており,被告の設立後,被告によって使用されるようになったが,被告は,上記誓約書を作成した平成23年4月ころまでは原告が本件商標権を有することを前提としており,その後,被告が本件商標権を取得したとか,被告に対し本件商標に関する専用使用権が設定されたとの事実は認められない。
上記の事情からすると,被告の設立後,本件商標の周知著名性が高まった事実があるとしても,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったということはできない。

また,上記(1) 認定の事実によれば,本件商標権のパテント料支払に関する契約の有効性等につき原告と被告との間に見解の相違があること,本件商標に係るパテント料支払について文部科学省から改善を要する事項について通知を受けたこと,実用数学技能検定事業に関し,原告と被告とが同時期に同様な検定を実施したことから受検者等に混乱が生じた経緯があることが認められる。
しかし,上記のような当事者間の民事上の紛争や受検生等の混乱は,もっぱら当事者間の反目や当事者による本件商標の使用態様その他の行動に起因して発生したものというべきであり,本件商標登録によって生じたとは認められない。そうすると,仮に,被告の実用数学技能検定事業が何らかの公的性格を有するとしても,民事上の紛争等が発生していることを根拠として,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったとか,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害するようになったということはできない。
加えて,本件商標の構成自体も社会的妥当性を欠くとはいえない。
したがって,本件商標登録が,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めることはできない。

これに対し,被告は,上記第3の2の(2)イ(ア)ないし(キ) 記載の諸事情を理由として,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標であり,その登録は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害する旨主張する。
しかし,本件商標のパテント料等に関する契約の有効性や当該契約に対する監督官庁の指導,本件商標権の譲渡に関して作成された合意書の効力(上記(ア),(ウ),(エ)) は,本件商標登録が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるか否かとは直接関係がない問題というべきである。
また,多くの受検者等が,本件商標を被告の有する商標と認識し,被告の実施する実用数学技能検定を公的資格として信頼していることから,本件商標を被告が使用することが一般社会の利益にも適うとの点(上記(イ)) については,「数検」等が被告の商標である旨を試験問題等に記載することが,必ずしも適切とはいえない上,受検者等が被告の実施する実用数学技能検定を信頼しているからといって,本件商標が被告によって使用されるべきであるとまではいえない。
さらに,出願経過において,原告が被告の理事長の地位にあり,被告のために本件商標権を行使することを前提として,商標の登録が認められたと考えられるから,現状において,原告に本件商標を独占させることは,社会的妥当性を著しく欠き,公益を害するとの点(上記(カ)) について,上記(1)エ 認定の事実に照らすならば,本件商標登録が認められたのは,むしろ,当時,原告が被告の理事長であり,被告の理事会の決議により原告が商標権の取得を認められている旨の議事録が提出されたことから,原告の出願に不正,不当な意図がないことが推認されたためと解するのが相当である。
そうすると,被告の上記主張は前提を欠き,失当である。
そして,原告が被告の類似団体を創設し,被告が従前から使用していたロゴを用い,被告と同様の検定を実施して,受検者等に混乱を生じさせているから,強い悪性があるとの点(上記(キ)) については,仮に,原告の上記行為が被告ないし受検生等の権利,利益を侵害するとしても,このような事情は商標の使用態様の問題であって,本件商標登録自体の問題ではないから,これを理由として,本件商標登録後に商標法4条1項7号に該当するものとなったとはいえないと解すべきである。
以上のほかに,被告の上記主張を根拠付ける事情は認められず,被告の上記主張は理由がない。

したがって,審決が,本件商標は被告によって使用されるべき性格の商標になったこと,社会的混乱を生じさせたこと等の諸事情を根拠として,本件商標は,商標登録がされた後において,商標法4条1項7号に該当するものとなったとした審決の判断には誤りがある。

2 結論

以上のとおり,原告の主張には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。(つまり商標登録を無効とせず、登録を維持する)

4、公序良俗に反する商標登録について

公序良俗に反するか否かについて、そもそも「公序良俗」を広くとらえる考え方と、出来る限り限定してとらえる考え方の2つがあります。
前回の「漢検」事件では前者の考え方がベースとされたのに対し、今回の「数検」事件では後者の考え方がベースとされました。
たとえば、上記の最判所の判断理由の中で、
「仮に,被告の実用数学技能検定事業が何らかの公的性格を有するとしても,民事上の紛争等が発生していることを根拠として,本件商標が被告によって使用されるべき性格の商標になったとか,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害するようになったということはできない。
加えて,本件商標の構成自体も社会的妥当性を欠くとはいえない。
したがって,本件商標登録が,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあると認めることはできない。」
とか、
「本件商標登録が認められたのは,むしろ,当時,原告が被告の理事長であり,被告の理事会の決議により原告が商標権の取得を認められている旨の議事録が提出されたことから,原告の出願に不正,不当な意図がないことが推認されたためと解するのが相当である。」
等とされている部分が「公序良俗」を狭くとらえる考え方を象徴しています。

現時点では、「公序良俗」を広くとらえる考え方と狭くとらえる考え方のどちらが主流であるかは判断できません。
裁判例を見ているとどちらも散見されるからです。
個人的には狭くとらえる考え方のほうに賛意を感じます。
「公序良俗」はその言葉自体としては余りにも漠然としすぎており、これを無制限に適用するようでは、先に出願して登録を得た方を保護するという先願主義に悖りますし、予測困難な判断は法秩序然としても好ましくないのではないでしょうか。
「公序良俗」が争われた事件には契約処理の失敗に起因するものが少なからずあり、このような私人間の紛争にまで「公序良俗」を持ち出すことには疑問があり、この点を指摘して本件商標登録を無効としなかった本事件の裁判所の判断には共感を覚えます。

 

 

この記事は知財高判平成25年2月6日(平成24(行ケ)10273)を元に執筆しました。