今回は「建物の売買」と「建築工事」が類似すると判断した大阪地判平24.12.13判時2208号を通して、役務(サービス)の類似について考察したいと思います。

1、どんな事件か。

原告であるXは指定役務を「建物の売買、建物の管理、建物等の鑑定評価」などとする登録商標「A」を有していました。
これに対して被告であるYは「A」の表示を用いて建築工事の請負業をしていました。
そこで、XがYに対して商標権侵害を主張して訴えを提起したというのが本事件です。
裁判所は、結果として「建物の売買」と「建築工事」を類似するものとしたのですが、この結論は少々衝撃的だったのです。
なぜ衝撃的なのかは以下で記述していきます。

2、一般論。

まず、役務が類似しているかどうかはどのように判断するのでしょうか。
最高裁判所は、商品の類似を判断する基準として、その商品自体が取引上誤認混同の虞があるか否かにより判断すべきではなく、「その商標をある商品に使用した場合に、商品の出所について誤認混同を生ずる虞があると認められるものであるかどうかということにより判定すべき」(最判昭36年6月27日民集15.6.1730)としています。
そして、その判定にあたっては「商品の品質、形状、用途が同一であるかどうかを基準とするだけではなく、さらにその用途において密接な関連を有するかどうかとか、同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情をも考慮すべき」である(最判昭39年6月16日民集18.5.774)としました。
この判断基準が商品だけでなく役務でも妥当するものとされています。

3、本件での判断。

本件で裁判所は、
「本件商標の指定役務は,「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価」等である。
被告は,本件商標を,本件対象物件の建築工事請負契約書,見積書,見積内訳書,仕様書,図面等に用いており,本件対象物件の建築工事請負について使用しているところ,建築工事請負は,建物の売買と密接な関係があり,これに本件商標が使用された場合,原告の有する本件商標権と誤認混同が生じるといえる。
したがって,被告の行為と本件商標の指定役務は類似する。」
と、簡単に述べて両役務が類似するものとしました。

4、本判決の評価。

<2>の一般論では、最高裁判所は「同一の店舗で販売されるのが通常であるかどうかというような取引の実情をも考慮すべき」としています。
これを本件についてみると、「建物の売買」は不動産会社(不動産仲介業者)が行い、「建築工事」は建設会社(ハウスメーカーや工務店)が行うもので、同一の会社が行うものとばかり言えるものではありません(もちろん中には両方ともしている会社もあるでしょうが)。
とすれば、本判決ではこれまでの類似範囲から比べて、より広く類似範囲を見たものと評価できるのではないでしょうか。

5、本判決の衝撃。

さて、はいじめに書いた「衝撃的」の中身です。
現在、特許庁で採用している最新の類似商品役務審査基準では「建物の売買」と「建築工事」は類似しないと扱われています。
なので、文字であれ、ロゴマークであれ同じ表示を別の会社が「建物の売買」と「建築工事」を指定役務として出願すれば、どちらも登録できてしまうのです。
しかし、裁判所では、類似と扱われてしまう可能性があると本判決は示唆しています。
とすると、実質的に抵触する商標が多数存在しているということになりそうです。
今後は、実情の判断に多少の混乱を生じる場面も出てくるのではないでしょうか。
混乱を避けるためには、どちらかの業務を行う場合は、防衛的にどちらも指定役務に入れておいた方が良いということになります。
ただし、現在「建物の売買」は第36類、「建築工事」は第37類と区分が異なりますので、出願料・登録料が割り増しになってしまうという点は頭を悩ますところです。