先日、大手ハンバーガーチェーンが使用していた表示が他社登録商標「黒七味」(第5157375号)の無断使用であるとして警告を受け、販売を中止したとの報道がありました。

今回は、この事例をもとに、良い商標とはどういうものか、登録商標の普通名称化を防止することの重要性について考えたいと思います。

1、「良い商標」とはどういうものか。

一口に「良い商標」と言っても、かっこいい商標、親しみやすい商標、独自性にあふれる商標と、抽象的にはいろいろな観点から見ることで異なると思います。
その中でも、商標の普及性という観点から見ると、商品やサービスの品質や内容が一目で理解できるような商標は「良い商標」ということができると思います。
分かり易い商品やサービス名はそれだけ消費者にとって受け入れられやすいからです。

2、「商品やサービスの品質や内容が一目で理解できるような商標」の問題点

ただし、「商品やサービスの品質や内容が一目で理解できるような商標」は商標「登録」に関してやや問題も生じます。
商標法3条1項3号では指定商品・指定役務の品質や内容等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は登録することができないとされているからです。
今回取り上げる第5157375号「黒七味」の登録商標も、出願後一度はこの3条1項3号の商標に該当するので登録できないとして拒絶され、審判で争った末に登録されています(不服2007-003385)。
「商品やサービスの品質や内容が一目で理解できるような商標」は消費者に理解されやすく、普及度か高い代わりに登録に関しては苦労することもあると言えます。

3、登録商標の普通名称化とは

商標法学上、普通名称とは「取引界においてその商品又は役務の一般的名称であると認められるもの」をいいます。
普通名称化とは文字通り、以前はその商品・役務の識別標識としての機能を有していたものが、あまりにも普及しすぎたために他社による使用例が多発し、その商品・役務の一般的名称であると考えられるようになることです。

4、普通名称化すると、どのような問題があるのか

一般的には商標はどんどん普及してもらいたいものです。
しかし、自社の登録商標であることを無視された態様で普及してしますと、普通名称化という問題を生じます。
商標法上、普通名称は商標登録ができないとされており、普通名称が登録されていても無効とされたり、権利行使が制限されてしまいます。

5、登録商標の普通名称化にまつわる実例

①普通名称化を阻止した事例

このように商標の普及に努めることは大事ですが、普通名称化だけは断固として阻止しなければなりません。
「普通名称化している、していない」を巡る争いとして「セロテープ」の事件があります。
この一連の事件は、はじめに地裁段階では普通名称化が否定され(神戸地判S36.1.25)、その控訴審では普通名称化が肯定されました(大阪高判S40.9.29)。
しかしその後、特許庁での審決では同じく普通名称化が肯定されるのですが、東京高裁では普通名称化が否定されて結審しました(東京高判S42.12.21)。
このように、裁判を何度も重ねた上で現在は登録商標として保護されています(登録番号第415360号、第546229号等)。
一度普通名称のように取り扱われると、登録商標としての地位を取り戻すことは非常に労力がかかるのです。

②普通名称化を阻止できなかった事例

セロテープとは異なり、普通名称化を阻止できなかった事例として「八丁味噌」をめぐる事件があげられます。
この事件では最高裁判所まで争いましたが、残念ながら普通名称であるとして登録は認められませんでした(最判H2.12.21)。

6、「黒七味」のお話し

さて、今回ハンバーガーチェーンは「黒七味」が登録商標であるとは知らなかったと主張しているようです。
それだけ「黒七味」が普及していたということでしょう。
「黒七味」が良い商標であることの表れだと思います。
しかし、普及性の高い良い商標であるからこそ、やはり普通名称化の脅威にはさらされることがあるということを今回の騒動は示しているのだと思います。
今回は商標権者の適切な警告により、相手方も認識を新たにし、紛争が悪化することが防ぐことができました。
このように、無断使用を見つけた際には、それを放置せず、その都度対応していく姿勢は非常に重要です。

商標は登録出来れば安心、というものではありません。
せっかく取得した登録商標なのですから大切に育ててあげてください。

 

注:

なお、普通名称か否かは、時代時代で異なるものであり、上記で示した事件も、あくまでもその当時の裁判所の判断であるということを一言添えさせていただきます。
また、普通名称や商品・役務の品質等を表す商標であっても、書体が大きくデザイン化されているような場合には「普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(3条1項1号・3号)とは言えないことから登録が認められることもあります。
このような商標の登録をご検討中の方は、ぜひ一度ご相談ください。