TPP交渉が大筋合意という報道がありました。
このTPP、知財分野でも影響があるのですが、その一つに地理的名称の強化というものがあります。
今回取り上げる事件は、直接TPPに関連するものではないのですが、現在でも著名な地理的名称を関した商標は登録されにくいことを示すものです。

1、事件の概要

原告は自社飲食店の店名として「シャンパンタワー」という商標を持っていました。
しかし、フランスの法律によりシャンパーニュ地方の酒造業者を保護する目的で設立された法人が「シャンパン」の表示がある商標はフランスが「CHAMPAGNE」ブランドを保護しようと費やしてきた努力を無視するものであるとして登録商標の無効を求めました。
特許庁は、このフランス法人の主張を認め、登録商標「シャンパンタワー」無効としたので、それを不服として、提訴したというのが今回の事件です。

2、裁判所の判断

裁判所は結論として登録商標「シャンパンタワー」が無効であるとの判断を維持しましたが、その主な理由は次のようなものです。

理由1

「シャンパンタワー」なる商標であるところ、そのうち「シャンパン」の語が、上記のとおり、「フランスのシャンパーニュ地方で作られる発泡性ぶどう酒」を意味するものとして、周知著名であり、当該表示には多大な顧客吸引力が備わっていること。

理由2

フランスの法律に基づいて設立された被告は、「シャンパン」表示が有する上記のような周知著名性や信頼性を損なわないよう、シャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者を厳格に管理・統制し、厳格な品質管理・品質統制を行ってきた。
このような、被告を始めとするシャンパーニュ地方のぶどう生産者やぶどう酒製造業者らの努力により、「シャンパン」表示の周知著名性が蓄積・維持され、それに伴って高い名声、信用、評判が形成されているものであり、「シャンパン」という表示は、シャンパーニュ地方のみならず、フランス及びフランス国民の文化的所産というべきものになっている。

結論

以上のような、本件商標の文字の構成、指定役務の内容並びに本件商標のうちの「シャンパン」の表示がフランスにおいて有する意義や重要性及び我が国における周知著名性等を総合考慮すると、本件商標を飲食物の提供等、発泡性ぶどう酒という飲食物に関連する本件指定役務に使用することは、フランスのシャンパーニュ地方における酒類製造業者の利益を代表する被告のみならず、法律により「CHAMPAGNE」の名声、信用、評判を保護してきたフランス国民の国民感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねないものであり、国際信義に反するものといわざるを得ない。

3、考察

判決の「フランス国民の国民感情を害し、我が国とフランスの友好関係にも影響を及ぼしかねない」と強く示されていることが注目されるべき点です。
今回被告となったフランス法人が全世界的に「CHAMPAGNE」の表示を保護しようとしてきた努力を積み重ねてきた歴史が重要視されていることの表れだと思います。
このフランス法人は相当のコストを払ってでも「CHAMPAGNE」の表示が汚されないように努めてきたようです。
例えば、
指定商品を第14類(貴金属等)とする「CHAMPAGNE SAPPHIRE/シャンパンサファイア」,「CHAMPAGNE STONE/シャンパンストーン」,「CHAMPAGNE JEWELRY/シャンパンジュエリー」

指定商品を第14類(金,金製のイヤリング等)とする「CHAMPAGNE GOLD/シャンパンゴールド」

指定商品を第14類(銀,銀製のイヤリング等)とする「CHAMPAGNE SILVER/シャンパンシルバー」

指定商品を第3類(せっけん類等)とする「シャンパンクリスタル/CHAMPAGNE CRYSTAL」

指定商品を第25類(被服等)とする「Pink Champagne/ピンクシャンパン」

指定商品を第30類(フランス国シャンパーニュ地方産の発泡性ぶどう酒を使用した菓子・パン等)とする「シャンパンローズ」

など、あらゆる分野で「○○シャンパン」「シャンパン○○」という商標が登録されていましたが、このフランス法人の申し立てにより登録が取り消されています。

4、教訓

これから商標登録をしようとする皆さんへ。

判決の理由内にもありますが、著名な表示はそれだけ顧客吸引力があります。
顧客吸引力が強い表示を商標の中に入れたいという気持ちは痛いほどよくわかります。
しかし、余りにも著名や表示は、やはり商標の中に入れないことが良いということもあるのです。
もし、今回の「シャンパン」ような著名な表示を自社商標に入れようとお考えの時は、その表示を大切に保護してきた人たちがいるということにも思いをはせてみてください。

既に登録商標をお持ちの商標権者の皆さんへ。

何回かお話ししていますが、商標は登録されてから本当の勝負が始まります。
自社商標と紛らわしい商標を発見したら、その拡大を防ぐための努力を惜しんではいけません。
今回のフランス法人は自国ブランドの保護のための努力を決して惜しみません。
確かに、コストはかかります。
しかし、本当に自社商標へのただ乗りを許していていいのですか。