商標登録をする際に、その商標が果たして登録できるものか否を判断するために、既に登録されている商標の調査を行います。
その調査で同一または類似の登録商標が見つかると、自社で出願しようとしていた商標は登録できないとの判断を一応は下せます。

しかし、「どうしても、その商標を使用したい」という場合に、強い味方となるのが不使用取消審判です。

これは簡単に言うと、日本国内で継続して3年以上使用されていない登録商標の取り消しを特許庁に請求できるというものです。
登録はしたけれど、いろいろな事情で、既にその商標を使用していない。
こういった登録商標は実は結構多いのです。
そこで、不使用の登録商標をそのまま残しておくことは、新たにその商標を使用して商売を始めようとする者の障害になることから、取り消しを求めることができるとされているのです。

ただ、登録商標を取り消される方は困ります。
そこで、取り消しを請求された側としてはもちろん登録商標を実際に使用しているので取り消される原因は無いと反論することになります。
例えば、「ルピナス」という商標を「フライパン」のブランドとして商標登録していたような場合は、「ルピナス」ブランドの「フライパン」を販売している事実を証明すればよいので、比較的簡単に使用の事実を証明できます。

今回は、商標の使用実態が本当に登録商標の使用と言えるのかが明確ではない場合に、どのように「使用」の事実が判断されるのかを見ていきます。

1、取り消しを請求された登録商標と実際の使用態様

事件は「青山ケンネルスクール」という登録商標が、「愛玩動物の美容及び看護の教授、愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営」という指定役務について不使用による取消が請求されたというものです。
取り消しを請求された商標権者は、その登録商標を用いて「愛犬の手作りご飯教室」を開催していました。
この「愛犬の手作りご飯教室」が「愛玩動物の美容及び看護の教授、愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営」と言えるのかが争われたのです。

2、登録商標の取り消しについての裁判所の判断

A、原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室が、「愛玩動物の美容の教授」、「愛玩動物の美容に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当するかについて

(1)
「美容」とは、(広辞苑第4版)、をいう。
また、美容を獲得し維持する手段として食事が挙げられることは広く社会一般に受け入れられていると認められる。上記辞書に定義される「美容」の手段にも制限はなく、食事が挙げられることもある。
そして、人間と犬などの愛玩動物との間で「美容」の意義を異なるものと考え、愛玩動物の「美容」をグルーミングやトリミングといった被毛の手入れに限定し、食事を介した美容の概念を排除しなければならない理由はない。
また、特許庁商標課編「商品及び役務の区分解説〔国際分類第10版対応〕」(乙33)には、第44類の「人又は動物に関する衛生及び美容」のうち人間に対する「美容」の解説として、「パーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくするサービスです。」旨記載され、「動物の美容」の解説として「このサービスには、トリミングやグルーミングといわれる動物に対して行われる美容に関するサービスが含まれます。」と記載されているが、これらの記載から愛玩動物の「美容」をグルーミングやトリミングといった被毛の手入れに限定しなければならないということもできない。
したがって、本件商標の指定役務である「愛玩動物の美容の教授」、「愛玩動物の美容に関するセミナーの企画・運営又は開催」から、愛玩動物の被毛の手入れのみならず、食事(食餌)を介して愛玩動物の美容の獲得・維持する方法の教授、セミナーの開催等が排除されるものではなく、これらも含まれるというべきである。
かかる見地から見るに、原告が開催している「愛犬手づくりごはん」教室は、犬の飼い主に対し、飼い犬のための健康で役立つ食餌の作り方を教授するものであるところ、「手作りご飯にしてから毛艶が良くなった」との声があることを教室の紹介の一環として挙げている。毛艶がよくなることは犬の容貌が良くなることであるから、この点において食餌を通した飼い犬の美容の獲得を教室の目的及び効果としているということができる。
また、「愛犬手づくりごはん」教室では肥満対策をテーマとしたものが開催されているところ、肥満は、愛玩動物の健康を害するのみならず、美容の点からも好ましくないと一般に考えられていることからすれば、肥満対策をテーマとした犬の食餌の作り方の教授も、食餌を介した飼い犬の美容の獲得・維持をその内容の一つとしているということができる。
(2)
そうすると、原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室は、「愛玩動物の美容の教授」、「愛玩動物の美容に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当するというべきである。

B、原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室が、「愛玩動物の看護の教授」、「愛玩動物の看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当するかについて

(1)
「看護」とは、「けが人や病人の手当て・世話をすること。看病。看護のための理論と実技を研究する学問」をいうところ(新明解国語辞典第5版)、けが人や病人の世話をする際、その傷病の内容に応じて食事の内容や提供の仕方に健康な人とは異なる配慮が必要なことは一般常識である。
かかる見地からみるに、「愛犬手づくりごはん」教室では、糖尿病、アレルギー、癌、腎臓病などの疾病に応じて、好ましい食材や栄養素、調理方法を教授するなどしていることが認められるから、疾患を有する飼い犬の世話の一環としての食餌の作り方を教授しているということができる。
(2)
したがって、原告が開催する「愛犬手づくりごはん」教室は、「愛玩動物の看護の教授」、「愛玩動物の看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」に該当するというべきである。

C、登録商標の「使用」と言えるのかの結論

以上のとおりであって、原告は、本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件商標を使用して「愛犬手づくりごはん」教室を開催していたものであるが、「愛犬手づくりごはん」教室の開催は、本件商標の使用役務である「愛玩動物の美容及び看護の教授」、及び「愛玩動物の美容及び看護に関するセミナーの企画・運営又は開催」を含むものであるから、原告は、本件商標を取消請求の対象となっている役務に使用していたと認めることができる。

3、これから登録商標の取り消しを請求しようとするときは。

このように、この事件では裁判所は登録商標の使用を認めたので、取り消しを免れました。
商標登録をしたいけど、既に登録されてしまっている、この登録商標をどうにかしたいというときには、不使用取消審判は非常に有力な手段となります。

しかし、こちらが既にその商標を使用している場合には注意が必要です。
もし、不意用取消けしが認められなかったら・・・。
取り消しを請求された側は、「同じ商標を用いて商売をしているものがいるのでは」と疑いを持つかもしれません。
そして、調査をしてみると、確かに同じ商標を使用しているもの(取り消しを請求した人や会社)がいる。
とすれば、当然、商標権侵害による差し止めや損害賠償請求をしてくるでしょう。

そこで、本当に使用していないのかの確認が重要となります。

今回紹介した事件は、登録商標の「使用」と言えるのかが争点になったものです。
取り消したい登録商標が本当に「使用」されていないと言えるのかを判断する際の参考にしていただければと思います。

 

 

この記事は、知財高判平成24.11.19(平成24(行ケ)10088)を元に執筆しています。