商標登録出願をして、めでたく登録されたとします。
その後、他社が自社の登録商標を無断で使用していることが発覚した場合、その使用をやめるように請求したり、他社の無断使用により損害が発生しているのであれば損害賠償を請求することができます。

この損害賠償請求をするときに、どういった方法で損額を算定するのでしょうか。
相手の帳簿を何とか入手して売り上げを確認しますか?
こんなことはなかなかできるものではありません。
もちろん裁判になれば帳簿の提出をもとめることができるとの規定はあります。
そこで、訴える側の負担を軽減するために商標法38条が「損害額の推定」について3つの方法を定めています。

今回取り上げるのはそのうち2項に規定する損害額の推定です。

1、商標法38条2項による損害額の推定

商標法38条2項には「①商標権者が故意又は過失により自己の商標権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、②その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、商標権者が受けた損害の額と推定する。」と定めています(①②は筆者が追加しました)。

①は商標権侵害が成立する場合に相手方に損害賠償を請求するときはということです。
今回の主題は②です。
訴える側がいろいろと損害額の根拠を立証しなくても、相手方がその登録商標の使用により利益を受けている場合は、その利益の額を商標権者の受けた損害額と推定するという規定です。
他社の登録商標を不正に使用して利益を上げたのであれば、その利益を侵害者にとどめておくことは正義に反するので、全部吐き出させることを目的としています。

2、商標権侵害であるとして訴えられた側はどのように反論できるのか

商標法38条2項はあくまで損害額を「推定する」ものですので、そんなに利益を得ていないということ主張・立証すれば、損害額の減額が認められます。
その際に裁判所で採られている判断手法が「寄与率」という考え方です。

3、商標(ブランド)の商品販売実績に対する貢献度が低いと、当然賠償額も低い

ある商標権侵害事件における「寄与率」の判断①

原告は,平成14年4月23日,本件登録商標につき指定商品中「のど飴及びキャンデー」の範囲において専用使用権設定登録を受けたものであり,本件において,同日から同年5月末日までの期間について被告の被告商品の販売により専用使用権を侵害されたとして損害賠償を求めている。
被告は,平成13年12月から平成14年5月30日までの間に被告商品27万6515袋(販売金額2903万4090円)を販売したものであるところ,証拠によれば,このうち平成14年4月23日から同月5月30日までの期間においては,7988.7袋(販売金額83万8820円)を販売したことが認められる(4月分については日割計算)。
また,被告商品の販売による利益については,証拠及び弁論の全趣旨によれば,
①原告と被告は共に菓子の製造販売を主たる目的とし,創業から50年以上を経過した老舗企業であり,全国的にその社名が知られている点において共通すること,
②原告と被告は共にのど飴(キャンディー)を製造販売していること,
③原告商品の販売価格(建値140円)から原価計算書に記載の製造原価(原料費,材料費,製造変動費,製造固定費)及び販売・一般管理費を控除して得られた利益の率は15%を下らないこと,
④被告商品の原料費,包材費及び製造工賃を合計した金額は,原告商品の製造原価と比べてそれほど差がないことが,それぞれ認められることからすれば,被告商品の販売による利益の額を原告商品の利益率から推定することには合理的な理由があり,被告が特段の反証を行っていない本件においては,被告商品の販売による利益率は原告の利益率と同じく15%を下らないと認めるのが相当である(この点につき,被告は,被告商品の販売によっては利益どころか損失が生じている旨を主張するが,これをうかがわせる証拠は提出されていない。)。

上記によれば,被告は,平成14年4月23日から同月5月30日までの期間,被告商品を販売することにより12万5823円の利益を得たことが認められるが(計算式83万8820円×0.15=12万5823円),前記のとおり,本件登録商標が強い商品出所識別機能を有するものではなく,また,市場における信用ないし顧客吸引力を備えたものということもできないことに照らせば,上記利益についての被告標章の寄与率は,5%と認めるのが相当である。

そうすると,被告の行為により専用使用権を侵害されたことによって原告の被った損害は,6291円(計算式:83万8820円×0.15×0.05=6291円)と推定される(商標法38条2項)。

4、商標(ブランド)の商品販売実績に対する貢献度が高いと、当然賠償額も高い

ある商標権侵害事件における「寄与率」の判断②

被告は,被告商品を識別する際に最も重要な商標は,「○○」の文字商標であるから,本件商標1及び同2の寄与度は極めて小さく,損害額の算定に当たっては大幅な寄与度減額がされるべき旨主張する。
この点,被告商品における「○○」の文字標章は,その外観,位置,大きさなどに加え,登録商標を意味する「®」が付されていることから,商標的に使用されているといえる。
そして,「○○」は,日本国内における被告商品の需要者にとって,特定の観念を生じさせるものではなく,相応の識別力を有していること,原告も原告商品の宣伝広告において,商品名を「プロシュテルピュアアンドフリー」とし,「○○」の片仮名表記を含めていたことも考慮すれば,一定の寄与度減額をすべき必要性は否定できない。
しかし,「○○」の商標が,日本の需要者の間で広く認知されていたことを認めるに足りる証拠はなく,その需要喚起の程度は定かではない。
一方,別紙正面視商品写真のとおり,被告商品において,正面中央に最も大きく,目立つ態様で商標的に使用されているのは,「○○」の文字標章ではなく,被告標章2である。また,原告は,平成14年以降,合計7種類の外国産ノンアルコールビールを継続的に販売しているが(そのうち「○○」の標章を付したものは原告商品を含めた2種類である。),いずれの商品にも本件商標1を構成する「○○」又は「プライムセレクト」の文字商標を付しており,本件商標1は,被告商品の需要者の間で相応の認知度を有していたといえる。
このような事情に照らせば,被告商品において,「○○」の文字標章が商標的に使用されていることを理由に大幅な減額をすべきではなく,30%の減額が相当である。(つまり70%の寄与を認めています)

5、商標登録することができたら、あとはブランドに認知度を上げるだけ

以上に示した2件の裁判例のとおり、商標権侵害事件における損害賠償額は、ブランドの商品売り上げにおける貢献度が高ければ高いほど高額になります。
当たり前と言えば当たり前の話ですが。
ただ、知っておいてほしいのは、商標権侵害であると訴えた方は、損害がいくらなのかを積極的には主張しなくてもよいということです。
商標法38条による損害額の推定を前提に訴えられた被告が、減額を争うという構図になります。

このような寄与度による減額を低くするためにも、せっかく取得した登録商標ですから、ブランドとしての認知度を高め、大きく育ててやってください。