近年の電子商取引の隆盛で、商品販売の方法も大きく変わり、実店舗を持たず、自社ウェブサイトのみで商品の販売をする会社がとても増えています。
各社、より消費者が求める商品を的確に提示できるように見やすいレイアウトを整え、その商品を探している消費者に見つけてもらうために検索エンジンに上位の順位で表示されるようウェブサイトの構成に工夫を凝らしています。
そのウェブサイトの構築に際しても、ぜひ商標権に注意を向けていただきたい。

今回は、「メタタグ」での登録商標の使用と商標権侵害について実例を交えてお話しします。

1、「メタタグ」とは

ASCII.jpデジタル用語辞典によると、
メタタグとは、
「HTMLで使用されるタグのひとつ。「メタ」は上位の概念や、包括的な概念を意味し、HTMLでは、そのドキュメント全体に関わる情報を記述するために使用される。検索エンジンは、メタタグの内容を、検索結果の順位を決める材料のひとつにしているので、SEOではメタタグが重視される。」
とあります。

実際にSEO(検索エンジンで上位表示されるように、検索エンジン向けにウェブサイトの構成を最適化すること)でメタタグがどの程度重要視されるかについては色々な考えがあるようですが、それでも、とりあえずはメタタグにキーワードを入れておくことがよくされているようです。

2、商標登録されている商品名と「メタタグ」のキーワード

消費者は自分が欲しい商品を見つけるために検索エンジンで商品名を検索します。
販売者側は当然、検索エンジンで自社サイトがヒットしないと売り上げにつながらないので、検索結果の上位に表示されるようにサイトの構成を考えます。
その一環として、「メタタグ」にその商品名をキーワードとして入れておくわけです。
ここで、その商品名が商標登録されている商品名、すなわち登録商標であったのなら、そのウェブサイトは商標権侵害となってしまうのでしょうか。

3、登録商標を「メタタグ」のキーワードに入れたことが商標権侵害となるか否かが争われた事例~イケア事件~

本件は,原告が「イケア」「IKEA」の登録商標を有していたところ、ドメイン名「IKEA-STORE.JP」(以下「旧ドメイン名」という。)又は「STORE051.COM」(以下「新ドメイン名」という。)を使用したウェブサイト(以下「被告サイト」という。)に被告が標章【IKEA STORE】、イケア通販、IKEA【STORE】、IKEA通販(以下「被告各標章」という。)を被告サイトのhtmlファイルのタイトルタグ,メタタグとして使用したことは,原告の商標権を侵害し,商標法36条1項,2項に基づき,被告サイトにおける被告各標章のタイトルタグ及びメタタグとしての使用の差止め並びに除去等を求めたという事件です。

4、被告サイトの「メタタグ」の使用状況

被告は,被告サイトを表示するためのhtmlファイルに,タイトルタグとして,「<title> 【IKEA STORE】イケア通販</title>」と記載し,メタタグとして,「<meta name=” Description” content= “【IKEA STORE】IKEA通販です。カタログにあるスウェーデン製輸入家具・雑貨イケアの通販サイトです。”/>」と記載していました。
また、被告サイトを表示するためのhtmlファイルには,タイトルタグとして,「<title> IKEA【STORE】イケア通販</title>」と記載され,メタタグとして,「<meta name=” Description” content= “イケア通販【STORE】IKEA通販です。期間限定!!最大1万円割引クーポンを商品ご購入者様,全員にプレゼント!!カタログにあるスウェーデン製輸入家具・雑貨イケアの通販サイトです。IKEAではハイデザインと機能性を兼ねそなえた商品を幅広く揃えています。>」と記載されていました。

これらのタイトルタグやメタタグの記載の結果,検索エンジンで「IKEA」,「イケア」とキーワード検索すると,検索結果の一覧が表示されるページにおいて,被告サイトは,上記各タイトルタグ及びメタタグの内容のとおり表示されていました。

5、被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用したことは原告の商標権を侵害するか否かについての判断

(1) 類否について

被告各標章は,著名な本件各商標に「通販」,「STORE」,「【】」を付加してなる標章であるが,被告各標章のうち「通販」や「STORE」の部分は,インターネット上の店舗において使用されるものであって識別力が弱く,また「【】」の部分も符号であって識別力はないから,被告各標章の要部は,「IKEA」ないし「イケア」の部分であると認められる。
これは,本件各商標と少なくとも外観及び称呼が同一ないし類似するから,被告各標章は,本件各商標に類似すると認められる。

(2) 商標的使用ないし商品等表示としての営業的使用について

インターネットの検索エンジンの検索結果において表示されるウェブページの説明は,ウェブサイトの概要等を示す広告であるということができるから,これが表示されるようにhtmlファイルにメタタグないしタイトルタグを記載することは,役務に関する広告を内容とする情報を電磁的方法により提供する行為に当たる。
そして,被告各標章は,htmlファイルにメタタグないしタイトルタグとして記載された結果,検索エンジンの検索結果において,被告サイトの内容の説明文ないし概要やホームページタイトルとして表示され,これらが被告サイトにおける家具等の小売業務の出所等を表示し,インターネットユーザーの目に触れることにより,顧客が被告サイトにアクセスするよう誘引するのであるから,メタタグないしタイトルタグとしての使用は,商標的使用に当たるということができる。
被告は,本件各商標をメタタグとして使用しているウェブサイトが多数存在するなどとして,被告各標章をメタタグに使用することが許されるかのような主張をするが,少なくとも本件における被告各標章の使用態様が違法性を欠くとは認めがたい。被告の主張は,採用することができない。

(3) 混同のおそれについて

被告各標章は,原告の商品等表示である「IKEA」ないし「イケア」に類似し,また,両者とも家具等の小売を目的とするウェブサイトで使用され,現に,被告サイトを原告サイトと勘違いした旨の意見が複数原告のもとに寄せられていることが認められるから,被告各標章を使用する行為は,原告の営業等と混同を生じさせるものである。

(4) 被告の引用に関する主張について

被告サイトにおいて,「「イケア」,「IKEA」など,【IKEA STORE】イケア通販に掲載しているブランド名,製品名などは一般にInter IKEA Systems B.V.の商標または登録商標です。 【IKEA STORE】イケア通販では説明の便宜のためにその商品名,団体名などを引用する場合がありますが,それらの商標権の侵害を行う意志,目的はありません。当店はイケア通販専門店になります。」という文言が記載されているとしても,これは被告サイトのウェブページの最下部に記載されていることが認められ,タイトルタグ又はメタタグと一体となって記載されているものではないから,かかる文言のみを根拠としてメタタグ又はタイトルタグに被告各標章を使用することが正当な行為であるということはできない。被告の主張は,採用することができない。

(5) 結論

そうすると,被告が被告各標章をタイトルタグ及びメタタグとして使用することは本件各商標権を侵害するから,商標法36条1項,2項に従い,原告は,被告に対し,被告各標章の使用を差し止め,データの除去を請求することができる。

6、登録商標の「メタタグ」での使用についての考察

「メタタグ」の記載自体は、ウェブサイトのソースを表示しない限り、サイト上では視認することができません。
そこで、「メタタグ」における登録商標の使用がはたして商標権を侵害する「商標的使用」つまり、商標権の重要な機能である「出所識別機能」(その商品やサービスを提供している事業者を他社と区別できる機能)が侵害されているのかについて争いがあるところです。
見えることの無い表示からは消費者は何も感じないということです。

この点について、本件の裁判所は、「htmlファイルにメタタグないしタイトルタグとして記載された結果,検索エンジンの検索結果において,被告サイトの内容の説明文ないし概要やホームページタイトルとして表示され,これらが被告サイトにおける家具等の小売業務の出所等を表示し,インターネットユーザーの目に触れることにより,顧客が被告サイトにアクセスするよう誘引するのであるから,メタタグないしタイトルタグとしての使用は,商標的使用に当たる」として商標的使用を認めました。

また、商品名をキーワードに入れることは初めにも述べましたが実はよくあることです。
そこで、被告は「本件各商標をメタタグとして使用しているウェブサイトが多数存在するなどとして,被告各標章をメタタグに使用することが許される」との主張をしますが,裁判所は「少なくとも本件における被告各標章の使用態様が違法性を欠くとは認めがたい。」として、被告の主張を受け入れることはありませんでした。

今回取り上げた事件では、そもそもウェブサイトのタイトル自体が「イケア」が直接運営するかの様な体裁であったことから、「消費者が被告サイトを原告サイトと勘違いした」旨の意見が複数原告のもとに寄せられて、商標権者であるイケアも見過ごすことができなかったと思われます。

Eコマースでは検索エンジンで上位に表示されていることが必須とは言え、今回取り上げた裁判例は、安易に他社の著名性にただ乗りするような行為は慎むべきであるという警鐘を鳴らしているように感じます。

 

 

この記事は、東京地判平成27年1月29日(平成24(ワ)21067)を元に執筆しています。