商標登録をするためには、商標と、その商標を用いて販売する商品又は提供するサービスを指定しなければなりません。
既にある商品等については、その概念が確立しているので、問題になることはあまりありませんが、世の中に新しく出てくる商品等については、それがどのような商品であるのかが問題になることがあります。
今回は、「LEDランプ」とはどのような商品出るのかが問題となった事例をご紹介します。
1、登録商標を自社商品に用いていたところ、当該商品が商標登録時の指定商品に含まれるかが争われた事例
商標権者は、指定商品を「LEDランプを除く電球類及び照明器具」とする登録商標を持っていました。
そしてその登録商標を「乾電池式センサーライト(光源にLEDを使用した照明器具)」に使用していました。
しかし、同じ商標を使用したい他社が、商標権者は登録商標を指定商品に使用していないとして取り消しを求めたというのが今回の事件です。
この事件の争点を簡単にまとめると次のようになります。
・商標権者の有する登録商標での指定商品=LEDランプを除く電球類及び照明器具
・商標権者が実際にその商標を用いて販売している商品=乾電池式センサーライト(光源にLEDを使用した照明器具)
争点は、「LEDランプ」がどのような商品であるのかです。
1、「LEDランプ」がLED電球類と狭く解釈された場合
本件商品は「LEDランプ」には含まれない。
しかし、「LEDランプを除く電球類及び照明器具」には含まれる。
そこで、登録商標を本件商品に使用していれば、「LEDランプを除く電球類及び照明器具」に使用していたといえるので取消は不成立となる。
2、逆に、「LEDランプ」が広く「光源にLEDを使用した照明器具」を含むものとして解釈された場合
本件商品は「LEDランプ」に含まれることになるので、登録商標を本件商品に使用していても「LEDランプを除く電球類及び照明器具」に使用していたとはいえず、取消の対象になる。
以上のような関係になります。
では、裁判所はどのように判断したのでしょうか。
2、商標登録の指定商品の解釈についての一般論
裁判所は指定商品の解釈について次のように判示しました。
「登録商標の指定商品又は指定役務は、第三者との関係で当該登録商標の権利の範囲を確定するものであるから、その用語については取引者による通常の使用法に基づいて客観的に解釈されるべきものである。」
3、では「LEDランプ」の用語は通常どのように使用されているのか
・「LEDランプ」の意義
「「LEDランプ」との用語は、それ自体として、辞書類には掲載されておらず、発光ダイオードを利用する歴史が浅いため国内規格も制定されていないことから、必ずしも厳密な定義がされているものではない。
また、一般に、日本語で「ランプ」とは、辞書類によれば、石油を燃料としガラスのほやで周りを覆う洋風の灯火又はその照明器具のほか、電灯などの灯火の総称として使用されているところ、「LEDランプ」に限らず「○○ランプ」という場合、「○○」という性質又は用途等を備えた電球類に限らず、そのような性質又は用途等を備えた各種の照明器具類を指称することも多い。
以上を踏まえて、「LEDランプ」との用語の実際の使用例をみると、「LEDランプ」又は「LED○○ランプ」と称する商品は、現在、例えばインターネットを通じた商品売買により広く流通している。
・「LEDランプ」との用語がいかなる商品を指称しているかについての使用例と取引者の認識
(裁判所は、まず多数の「LEDランプ」使用例について事実認定を行いますが省略します)
以上に加えて、「LEDランプ」との用語によるインターネット上の記事の検索結果一覧が、「LEDランプ」との上記①ないし⑪にみられるような多様な使用例を示していることを併せ考えると、「LEDランプ」との用語は、本件審決が説示するようにLED電球類を指称するものに限定して使用されているものとは認め難く、むしろ、取引者により、現時点において、光源としてLEDを使用した多様な商品又は部材を指称するものとして広く使用されており、それ以上に対象に応じて厳密に使い分けられているものではないばかりか、少なくとも、前記③の複数の使用例にみられるように、防犯等を目的として室内又は室外に設置するために作られた、人の動きを探知して自動的に点灯する乾電池を電源とするセンサーライトであって、LEDを光源とするものも指称すると認識されているものと認められる。
4、本件で商標権者が登録商標をその指定商品に使用していたと言えるのかについて
商標権者は、平成21年8月4日頃から本件審判の請求の登録の日までの間、本件商標と同一又は社会通念上同一のものというべき「エコルクス」又は「ECOLUX」との標章を、防犯等を目的として室内又は室外に設置するために作られた、人の動きを探知して自動的に点灯する乾電池を電源とするセンサーライトであって、LEDを光源とするものである本件商品の包装に付して、日本国内で第三者に対して譲渡したものである。
しかるところ、前記のとおり、「LEDランプ」との用語は、取引者により、本件審判の請求の登録(平成22年6月30日)前3年間において、光源としてLEDを使用した多様な商品又は部材を指称するものとして広く使用されており、それ以上に対象に応じて厳密に使い分けられているものではないばかりか、少なくとも、防犯等を目的として室内又は室外に設置するために作られた、人の動きを探知して自動的に点灯する乾電池を電源とするセンサーライトであって、LEDを光源とするものも指称すると認識されていたものと認められる。
したがって、本件商品は、上記のとおり、第2次審決の確定により前件審判の請求の登録の日(平成21年4月30日)に本件商標の指定商品から消滅したものとみなされる「LEDランプ」に該当するから、同日から本件審判の請求の登録の日(平成22年6月30日)までの間において、本件商標の指定商品に該当しない。
そして、被告は、上記期間内における本件商品に対する本件商標の使用のほかに、本件商標又はこれと社会通念上同一の標章を本件商標の指定商品について使用したとの事実を何ら主張立証していない。
以上によれば、被告は、本件審判の請求の登録前3年以内に日本国内において、商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品のいずれかについて本件商標の使用をしていることを証明していないというほかない。
5、商標登録を取り消すか否かについての結論
裁判所はこのように判断して、商標権者による登録商標の使用を認めず、商標登録が取り消されました。
6、これから商標登録する際に
このように、世の中にまだ普及していない新しい商品やサービスを指定商品・指定役務として商標登録するときには、出来る限り詳しくその商品やサービスがどのようなものであるのかを記載し、実際に販売している商品等がその範囲にちゃんと含まれているのかについて、十分な気配りを行うことが必要です。
さもないと、せっかく商標登録ができたとしても、その指定商品・指定役務の使用していないことを理由に取り消されるという憂き目にあうかもしれません。
商標登録をする際には、先登録商標との類否(似ているか似ていないか)にばかり目をとらわれがちですが、実は指定商品・指定役務こそ重要になるのです。
この記事は、知財高判平成24年9月12日(平成24(行ケ)10103)を元に執筆しています。