現行商標法上、「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については(中略)商標登録を受けることができる。」(商標法3条1項柱書)と規定されているので、自社で使用する意思のない商標は商標登録を受けることができません。
しかし、審査実務上は、使用意思のあるなしを積極的に調査することは無く、明らかに使用する意思が無いと認められるものについてだけ、商標登録させないというスタンスとなっています。

そこで、自社の商標を第三者が商標登録してしまうという事態も生じるのです。
今回は、そのような場合にどう対処すればいいのかというお話です。

1、剽窃的な商標登録への対処法

代表的な対処法は、他社による商標登録が上記商標法3条1項柱書に違反してなされたものであるとして無効を求めることです。

2、具体例

では、商標法3条1項柱書に違反する=商標を使用する意思がないにもかかわらず商標登録を受けたということはどのように主張立証すればいいのかを実際の事件に基いて解説します。

1 事実認定

(1) 原告による本件店舗の開店等

原告は,サントリーホールディングス株式会社の子会社であり,飲食店経営を業としている。原告は,複数の飲食店を経営しているところ,平成21年ころ,新たな形態の飲食店として本件店舗を開店することとし,その名称を,自ら経営する飲食店「ローズ&クラウン」(Rose & Crown)の頭文字である「RC」(アールシー)と,英語で居酒屋や酒場を意味する「Tavern」(タバーン)を組み合わせた「RC TAVERN/アールシータバーン」とした。原告は,平成21年10月1日,東京都千代田区丸の内1-8-1丸の内トラストタワーN館1Fに,原告使用商標を使用し,飲食物の提供を業とする本件店舗を開店した。

(2) 原告使用商標等

原告使用商標(1)の構成は,上段に「RC TAVERN」の欧文字(やや茶系の金色)と下段に「アールシータバーン」の片仮名(黒色)を配してなるものである。上段の「RC TAVERN」の文字のうち,「RC」の文字は,「TAVERN」の文字に比べて大きく表した構成からなっているものの,全体としてはまとまった印象を与えており,「アールシータバーン」の称呼が生ずる。
また,「Tavern」は,日本では馴染みが浅いものの,英語で居酒屋や酒場を意味するところ,飲食物の提供に使用される場合,「RC TAVERN」からは,「RC」という名の居酒屋ないし酒場を観念する余地がある。
さらに,下段の「アールシータバーン」は,各文字が,ほぼ同一の書体,大きさ,間隔で表記されており,「アールシータバーン」の称呼が生じるが,これらの文字列に対応した語は,一般には存在しない造語であり,特定の観念は生じない。
さらに,原告使用商標(2)の構成は,原告使用商標(1)の構成から「アールシータバーン」との片仮名部分を除いたものであり,原告使用商標(1)と同様に,「アールシータバーン」の称呼が生じる。原告使用商標(2)も,飲食物の提供に使用される場合,「RC」という名の居酒屋ないし酒場を観念する余地がある。

(3) 原告使用商標の使用状況等

原告は,以下のとおり,平成21年9月17日ころから,原告使用商標を使用して本件店舗の宣伝,広告をした。
すなわち,

ア ウェブサイトにおける情報掲載等

原告は,平成21年9月17日,飲食店に関するポータルサイトとして著名な「ぐるなび」に,本件店舗のウェブサイトを立ち上げ,同日から本件店舗開店後の同年10月9日までの間に,パソコン及び携帯電話から合計1万1489回のアクセスがされ(なお,同一日の同一回線からの複数回のアクセスを1回と計算する「ユニーク」数は,4154回である。),同月10日から本件商標の登録出願日の前日である同月23日までの間に,パソコン及び携帯電話から合計1万0698回のアクセスがされた。
また,原告は,独自に原告経営に係る飲食店の情報を掲載するウェブサイトを開設しているところ,同ウェブサイトに本件店舗の開店に係る情報を掲載した平成21年10月1日から同月23日までの間に,6万3586人のユーザから7万8133回のアクセスがされた。

イ パンフレットの配布等

原告は,本件店舗の開店前に,その開店を宣伝するためのパンフレットを3万5000部作成し,①平成21年9月19日から原告が経営する他の飲食店14店舗で,同月20日から東京都内の丸の内,有楽町,新橋等の街頭で,合計8000部を配布し,②同年10月5日から,原告が経営する飲食店のメンバーズカードの会員である「倶楽部ダイナック会員」宛のダイレクトメールにより,関東地方各県在住の会員に2万4577部(うち東京都内在住の会員に1万5219部)を配布し,③原告が経営する他の飲食店とともに本件店舗を宣伝するパンフレットを,「倶楽部ダイナック会員」宛のダイレクトメールにより約3万6500部,関係各社宛に2000部,それぞれ配布した。

ウ プレスリリース等

原告は,平成21年9月30日,新聞社及び雑誌社等合計86社に対し,本件店舗の開店を知らせるプレスリリースを送付し,同年10月14日,当時約25万部ないし30万部の発行部数があった日経MJに本件店舗に関する記事が掲載された。

(4) 本件商標等

被告は,平成21年10月24日に本件商標の登録出願をし,平成22年3月26日にその登録を受けた。本件商標の構成は,別紙1商標目録記載1のとおり,「アールシータバーン」の文字を横書きしてなるものであり,各文字が,ほぼ同一の書体(手書きの文字と推認される。),大きさ,間隔で表記されており,全体がまとまった印象を与えており,本件商標からは,「アールシータバーン」との称呼が生じる。
本件商標の文字列に対応した語は,一般には存在せず,本件商標からは特定の観念は生じない。
被告は,本件商標の登録前から現在に至るまで本件商標を指定役務である「飲食物の提供」やその他の業務に使用したことはない。

(5) 本件商標と原告使用商標(1)の類否について

上記のとおり,本件商標の構成は,原告使用商標(1)下段の「アールシータバーン」と書体以外は同一であること,原告使用商標(1)は,上下二段にそれぞれ「RC TAVERN」,「アールシータバーン」と書してなるものであり,全体としても「アールシータバーン」との称呼が生じ,称呼において本件商標と一致することからすれば,本件商標と原告使用商標(1)は,外観に相違する部分があり,原告使用商標(1)について「RC」という名の居酒屋ないし酒場を観念することができる場合に,観念において相違する余地があるとしても,全体として互いに類似する商標と認められる。
これに対し,被告は,原告使用商標の要部は,「TAVERN」の部分であると主張する。
しかし,原告使用商標(1)は,「RC」の文字が「TAVERN」の文字に比べ,大きく表した構成からなっていること,「TAVERN」の文字部分は,日本では馴染みが浅いものの,飲食物の提供に使用される場合,居酒屋や酒場を意味する普通名称であることからすれば,原告使用商標(1)において,格別「TAVERN」の文字を要部として取り上げて類否判断を行うべき理由はなく,被告の上記主張は失当である。

(6) 被告によるその他の商標登録等

被告は,別紙2「被告による登録商標リスト」記載のとおり,平成20年6月27日から平成21年12月10日までの間に,本件商標以外にも44件の商標登録出願をし,その登録を受けている。このうち,飲食物の提供を指定役務とする番号4,7ないし15,17,18,20,21の商標については,被告とは無関係にこれと類似の商標を使用して飲食物の提供を行っている店舗が存在する。
また,飲食物の提供以外を指定役務とする番号22,24ないし29,31ないし36,39,44,45の商標についても,被告とは無関係にこれと類似の商標ないし商号を使用して業務を行っている会社等が存在し,このうち,番号22,24,25,31ないし35,44,45の商標と類似の商標ないし商号を使用する会社については,被告が商標登録の出願をした日よりも前に,類似の商標ないし商号を使用している。
被告は,上記各商標についても,現在に至るまで,指定役務やその他の業務に使用したとはうかがわれない。

2 判断

(1) 商標法3条1項柱書は,商標登録要件として,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」であることを規定するところ,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」とは,少なくとも登録査定時において,現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標,あるいは将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標と解される。
これを本件についてみるに,上記認定事実によれば,①原告は,平成21年9月17日ころから,ウェブサイトにおける情報掲載,パンフレットの配布,プレスリリース等を行い,東京都を中心に,原告使用商標を使用して本件店舗の宣伝,広告を行っていたこと,②原告は,同年10月1日,東京都千代田区丸の内に,原告使用商標を使用し,飲食物の提供を業とする本件店舗を開店したこと,③被告は,同月24日,本件商標の登録出願をし,平成22年3月26日にその登録を受けたが,現在に至るまで本件商標を指定役務である「飲食物の提供」やその他の業務に使用したことはないこと,④本件商標と原告使用商標(1)は,類似すること,⑤原告使用商標は,原告が経営する飲食店「ローズ&クラウン」(Rose & Crown)の頭文字である「RC」(アールシー)と,英語で居酒屋や酒場を意味する「Tavern」(タバーン)を組み合わせた造語で,特徴的なものである上,本件店舗の宣伝,広告及び開店と本件商標の登録出願日が近接していることからすれば,被告は,原告使用商標を認識した上で,原告使用商標(1)と類似する本件商標を出願したものと考え得ること,⑥被告は,平成20年6月27日から平成21年12月10日までの短期間に,本件商標以外にも44件もの商標登録出願をし,その登録を受けているところ,現在に至るまでこれらの商標についても指定役務やその他の業務に使用したとはうかがわれない上,その指定役務は広い範囲に及び,一貫性もなく,このうち30件の商標については,被告とは無関係に類似の商標や商号を使用している店舗ないし会社が存在し,確認できているだけでも,そのうち10件については,被告の商標登録出願が類似する他者の商標ないし商号の使用に後れるものであることが認められる。
上記事情を総合すると,被告は,他者の使用する商標ないし商号について,別紙2のとおり多岐にわたる指定役務について商標登録出願をし,登録された商標を収集しているにすぎないというべきであって,本件商標は,登録査定時において,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標に当たらない上,被告に将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思があったとも認め難い。
これに対し,被告は,平成20年から,いわゆるシニア起業を協力者1名とともに計画し,予定業務について前広に商標の出願登録を行うとともに,飲食店の開業を目指し,神奈川県西部を中心に,いわゆる居抜きの店舗を探していたが,円高不況,大震災等により開業リスクが高まったため,一時開業を見合わせており,経済情勢の好転を待って小規模でも開業する予定であるなどとあいまいな主張をするのみで,これを裏付ける証拠を一切提出しておらず,その主張は,にわかに措信し難い。
したがって,本件商標は,その登録査定時において,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用をしている商標にも,将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思のある商標にも当たらず,本件商標登録は,「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に関して行われたものとは認められず,商標法3条1項柱書に違反するというべきである。

(2) この点について,審決は,上記事情をもってしても,被告の本件商標に係る使用の意思について合理的な疑義があるとはいえないと認定,判断する。
しかし,登録商標が,その登録査定時において「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に当たることについては,権利者側において立証すべきところ,本件商標についてこれを認めるに足りる証拠はなく,むしろ,上記認定事実によれば,本件商標登録は,被告が現に自己の業務に係る商品又は役務に使用していない商標について,将来自己の業務に係る商品又は役務に使用する意思もなく行われたものというべきであって,上記審決の認定,判断は失当である。
以上のとおり,本件商標は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標」に該当しないというべきであり,本件商標登録が商標法3条1項柱書に違反しないとした審決の判断には誤りがある。
付言するに,上記認定の事実関係に照らすと,本件商標は,原告使用商標を剽窃するという不正な目的をもって登録出願されたものとして,商標法4条1項7号(公序良俗に反するおそれのある商標)に該当する余地もあるが,本件においては,同法3条1項柱書該当性の判断で足りるものと解する。

3、商標ブローカーに狙われないために

この事件では、無効とされた商標登録の商標権者(被告)はこの事件の原告以外にも他社の未登録商標を商標登録していました。
このような事情から、被告が真にその商標を使用する意思が無いものと判断され、原告からするとめでたく商標登録の無効が認められました。
しかし、ここまでくるには多額の費用と時間が費やされます。
このようなコストを払わなければならない事態は出来れば避けたいものです。
とすれば、新商品の販売前や新店舗の開店前より前の段階、プレス発表前の段階など、他社の動向を知られる前に商標登録出願をしておくことが必要です。
より安全性を考えるなら、その段階では商標を1つに絞らずに複数の商標を出願しておき、拒絶リスクを避けておくことが好ましいでしょう。

 

 

この記事は知財高判平成24年5月31日(平成24(行ケ)10019)を元に執筆しています。