商標登録できたとしても、故意に他社の商標と混同するような態様でその登録商標に類似する商標を使用してはいけません。

商標登録をすると、当然ですが、その商標を指定商品・指定役務について使用する権利を独占できます。
しかし、商標登録できたとしても、その商標に類似する商標を他社の商標と混同することを承知の上で使用することはできません。
もし、そのような使用をしてしまうと折角登録できた登録商標が取り消されてしまうかもしれません。

今回は、登録商標に類似する商標を他社の商標と混同する態様で故意に使用したとして、登録を取り消された事例をご紹介します。

1、商標登録取り消しの根拠

商標法51条1項には商標登録が取り消される場面について次のように定められています。
「商標権者が故意に指定商品若しくは指定役務についての登録商標に類似する商標の使用又は指定商品若しくは指定役務に類似する商品若しくは役務についての登録商標若しくはこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたときは、何人も、その商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」
要件ごとに分節しますと、
①他社の商標と混同を生じること等に商標権者の故意があること、
②登録商標に類似する商標を使用すること、
③登録商標に類似する商標の使用により、商品やサービスの品質の誤認を生じること又は他人の業務に係る商品もしくはサービスと混同を生ずること、
の要件に該当すると、商標登録が取り消されてしまいます。
この規定は、商標の不当な使用によって一般公衆の利益が害されるような事態を防止し,そのような場合に当該商標権者に制裁を課す趣旨のものであり,需要者一般を保護するという公益的性格を有するものである(最高裁昭和58年(行ツ)第31号同61年4月22日第三小法廷判決・裁判集民事147号587頁参照)という趣旨で規定されています。

2、商標登録の取り消しにかかる事件の概要

今回、取り消しが争われた側(X)の登録商標は「MultiProGreens」の下に「マルチプログリーンズ」を二段に書き表したものです。
しかし、実際に使用されていたのは「ProGreens」を大きく表した文字の「Pro」の上に、非常に小さく「Multi」を書いたというものでした。
一方取り消しを求めた側(Y)の登録商標は「PROGREEN」というものでした。
そこで、Yが特許庁に対してXは故意にXの登録商標を自社の登録商標と混同を生じる態様で使用しているとして、取り消しを求めたところ、特許庁もYの主張を認めてXの商標登録を取り消しました。
この特許庁の決定に不服を持ったXが、その決定の取り消しを求めて提訴したのが今回に事件です。

3、商標登録の取り消しについての裁判所の判断

1 商標法51条1項の「混同を生じる」場合の解釈について。

裁判所は商標法51条1項の趣旨を上記「1、」のように解釈した上で、次のような場合に「混同を生じる」場合に該当すると判断しました。
商標法51条1項の上記のような趣旨に照らせば,同項にいう「商標の使用・・・であって・・・他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには,使用に係る商標の具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との間で具体的に混同を生ずるおそれを有するものであることが必要であるというべきであり,そして,その混同を生ずるおそれの有無については,商標権者が使用する商標と引用する他人の商標との類似性の程度,当該他人の商標の周知著名性及び独創性の有無,程度,商標権者が使用する商品等と当該他人の業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情等に照らし,当該商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断されるべきものである。
そこで,まず,本件商標と使用商標との類似性を検討した上で,上記のような観点から,
①使用商標と引用商標との類似性の程度,
②引用商標の周知著名性及び独創性の程度,
③使用商標が付された商品とYの業務に係る商品等との間の性質,用途又は目的における関連性の程度,
④商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情
を総合して,使用商標の具体的表示態様がYの業務に係る商品等との間に具体的に混同を生ずるおそれの有無について検討することとする。

2 本件商標と使用商標の類似性について

(1) 本件商標について

本件商標は,別紙本件商標目録のとおり,「MultiProGreens」の欧文字と「マルチプログリーン」の片仮名文字を上下2段に横書にした構成からなる。本件商標からは,上記各文字の構成全体に応じて,「マルチプログリーンズ」又は「マルチプログリーン」との称呼が生ずる。

(2) 使用商標について

使用商標は,別紙使用商標目録のとおり,「ProGreens」の欧文字を横書にし,その左上に「multi」との欧文字を白抜きで横書にして配置した構成からなる。使用商標からは,後記3ウ(ア)のとおり,「ProGreens」の文字部分から「プログリーンズ」との称呼が生ずるほか,構成文字全体に応じた「マルチプログリーンズ」との称呼が生ずる。

(3) 本件商標と使用商標の類否について

本件商標と使用商標とは,その構成中に「Multi」又は「multi」との欧文字や「ProGreens」との欧文字を含んでいる点で共通性を有しているものの,各文字の配置や,本件商標の構成中には,使用商標にはない「マルチプログリーン」との片仮名文字も含まれているという点で相違しているから,両者は,全体としてその外観そのものが顕著に類似するものではない。
また,本件商標を構成する「Multi」や使用商標を構成する「multi」との語も,「多くの」,「種々の」等の意味を有するものであるにすぎないし(研究社「NEW COLLEGIATE 英和辞典」第5版),「ProGreens」や「プログリーン」は,いずれも造語であるから(弁論の全趣旨),本件商標と使用商標とは,いずれも特定の観念を生ずるものではない。
そして,1個の商標から2個以上の称呼,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきであるところ(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁参照),使用商標からは,「プログリーンズ」との称呼が生ずるほか,構成文字全体に応じた「マルチプログリーンズ」との称呼も生じ,本件商標から生じる称呼の1つである「マルチプログリーンズ」と称呼が同一である以上,使用商標は,本件商標と類似するものというべきである。

3 混同のおそれについて

(1) 使用商標と引用商標との類似性の程度について
ア 使用商標の構成等について

使用商標の構成等は,前記2(2)のとおりである。

イ 引用商標の構成等について

引用商標は,「PROGREEN」の欧文字からなり,構成文字全体に応じた「プログリーン」との称呼が生ずるものである。

ウ 使用商標と引用商標との類否について

(ア) 結合商標の類否の判断
―中略―
「ProGreens」の文字は,「multi」の文字に比べて,構成文字が多く,その文字の幅も約5倍程度になっていること,「multi」の文字は白抜きで表記されているのに対し,「ProGreens」の文字は,白抜きでない通常の文字で表記されていることなどからすると,外観上,「ProGreens」の文字は,「multi」の文字に比して,見る者の注意をより強く引くものであるということができる。
また,前記のとおり,「multi」との語は,「多くの」,「種々の」等の意味を有するものであり,「multi」との語自体が自他商品の識別のために格別の意義を有するものではない。
そうすると,使用商標のうち「ProGreens」との文字部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分に結合しているものということはできず,当該文字部分だけを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
したがって,使用商標からは,その構成全体である「multi ProGreens」だけでなく,「ProGreens」との文字部分からも,称呼,観念を生じ得るものというべきである。
(イ) 使用商標と引用商標との類似性の程度について
前記のとおり,使用商標は,「ProGreens」の文字部分だけを引用商標と比較して商標の類否を判断することも許されるものであるところ, 使用商標の「ProGreens」の文字部分と引用商標1については,引用商標ではその構成文字が全て大文字であるのに対し,使用商標の「ProGreens」の文字部分では「P」と「G」以外が小文字であるという差異と,使用商標の「ProGreens」の文字部分の末尾には「s」の文字があるが,引用商標1の末尾には「s」がないという差異があるにすぎず,当該「s」を除いた8文字からなる構成文字の綴りは同一のものである。
したがって,使用商標と引用商標は,外観上類似するというべきである。
また,使用商標からは「プログリーンズ」との称呼が,引用商標からは「プログリーン」との称呼がそれぞれ生じ,両者は,語尾に「ズ」が付くか否かの差異があるものの,これを除く「プログリーン」の6音は共通しているから,称呼においても類似するものである。
そして, 使用商標を構成する「ProGreens」と引用商標を構成する「PROGREEN」はいずれも造語であり,特定の観念を生ずるものではない。
以上に検討した外観,称呼及び観念における類似性からすると,使用商標と引用商標は,類似の商標であるということができる。

(2) 使用商標が付された商品とYの業務に係る商品等との間の性質等における関連性の程度について

使用商標が付された商品とYの業務に係る商品は,いずれも健康食品と呼ばれている分野の商品であるという点で共通性を有するものである。

(3) 商品等の取引者及び需要者の共通性等

Y製品は,AGA加盟の薬局・薬店において,対面販売されているが,使用商標を付したXの商品は,インターネットを通じて一般の需要者に販売されている。

(4) 引用商標の周知著名性及び独創性の程度について
ア 独創性の程度について

引用商標は,特定の観念を生じさせることのない造語であるが,引用商標は「PROGREEN」との欧文字のみで構成され,商標の構成としてはさしたる独創性を有するものではない。

イ 周知著名性について

―中略―
前記認定のとおり,平成20年頃には,引用商標を付したY製品を販売するAGAの加盟店が全国で400店舗余りとなり,また,平成13年頃から平成20年頃までの間に,著名な出版社が出版する雑誌等において,引用商標を付したY製品の写真が掲載されていること,その結果,後記認定のとおり,Xがその商品に使用商標を使用した平成20年頃には,大麦若葉を原材料とする青汁市場あるいは大麦若葉のほかケール等を原材料とする青汁市場において,Yは,Y製品とそれ以外の製品との合算ではあるものの,企業別販売数で4位あるいは5位のシェアを占めるまでの販売実績を上げていることなどからすると,引用商標は,青汁等の健康食品の取引者,需要者の間で,著名ないし周知であったとまではいえないものの,一定の認知を得ていたものということができる。

(5) 小括

以上のとおり,使用商標と引用商標は類似の商標であり,これらの商標が使用される商品も共通性を有するものである。また,引用商標は,独創性が高いものではなく,Xがその商品に使用商標を使用した平成20年頃には,いわゆる健康食品の需要者,取引者の間で,著名ないし周知であったとまではいえないものの,一定の認知を得ていたものということができる。
そして,Y製品が薬局・薬店において対面販売されているのに対し,使用商標を付したXの商品は,インターネットを通じて販売されるものであって,両者は販売態様,方法を異にしているから,そうした販売の実情に通じた薬局・薬店等の取引者であれば,使用商標が本件指定商品について使用されていたとしても,それがYの業務に係る商品であるとの誤認,混同を生ずるおそれが高いとまではいえないものの,使用商標を付したXの商品はインターネットを通じて一般の需要者に対して直接販売されるものであり,引用商標の存在については認識しているが,上記のような販売の実情に通じていない一般の需要者にあっては,上記検討した使用商標と引用商標との類似性に照らして,インターネット上で接したXの商品について,Yの業務に係る商品であるとの誤認,混同を生ずる具体的なおそれがあるものといわなければならない。

4 Xの故意について

(1) 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 平成8年5月頃,Xは,米国のニュートリコロジー社が製造した健康補助食品「PROGREENS」について,使用商標に類似する商標(「ProGreens」の欧文字を横書にし,その左上に「Multi」との欧文字を横書にして配置した構成からなる。)を使用して日本国内での販売を始めた。
イ その後の平成11年頃から平成18年2月頃まで,Xは,上記健康補助食品「PROGREENS」について,「ProGreens」の欧文字から構成される商標を使用していた。
ウ 平成18年2月22日,Yは,Xに対し,「Xがインターネットを通じ,「PROGREENS」の宣伝広告等を行うことは,引用商標に係るYの商標権を侵害するものであり,直ちに当該行為の停止を求める」旨記載した書面を送付した。
これに対し,平成18年3月20日頃,Xは,Yに対し,「Xとしては,早急にYが指摘した業務を中止するとともに,今後は本件商標を付して商品の販売をする」旨記載した書面を送付した。
エ しかし,平成19年4月12日頃,Xは,インターネット上において,Xの会社概要のほか,使用商標を付した商品の写真を掲載していた。
オ そこで,平成19年4月17日,Yは,Xに対し,「multi Progreens」との商標を付したパッケージの使用は,引用商標の商標権を侵害する行為である旨記載した書面を送付した。
これに対し,Xは,Yに対し,平成19年5月8日付けで,対応策を検討する旨記載した回答書を送付した。
カ しかるに,Xは,平成20年11月頃,インターネット上で,使用商標を付した商品の写真を掲載して,当該商品の宣伝広告をした。
(2) 前記3(5)のとおり,使用商標は,これを本件指定商品に使用した場合,客観的には,当該商品がYの業務に係るものであるとの誤認,混同を生ずるおそれを有するものであるところ,Xは,平成19年4月17日,Yから,「multiProgreens」との商標が引用商標に係るYの商標権を侵害するとの通知を受けていながら,その後である平成20年11月頃に,使用商標を用いた商品の宣伝を行っているのであるから,少なくとも,その宣伝行為に当たっては,使用商標を使用した結果,Yの業務に係る商品との誤認,混同を生じさせるおそれのあることを認識し,かつこれを認容していたものと認めるのが相当である。
(3) Xの主張について
Xは,Xによる使用商標の使用開始は平成8年1月頃であり,その当時,引用商標は商標登録されておらず,引用商標が需要者の間に広く認識されていた事実はなかったとか,Xが平成18年7月頃に使用商標の使用を再開したのは,Yからの通知書による警告を受けたためであるなどとして,Xには使用商標を付した商品について出所の混同を生じさせる故意があるはずはないなどと主張する。
確かに,証拠によれば,Xは,平成8年5月当時,その販売に係る商品について,使用商標に類似する商標(「ProGreens」の欧文字を横書きにし,その左上に「Multi」の欧文字を横書きにして配置したもの)を使用していたことが認められるが,商標法51条1項所定の故意の有無は使用商標の使用時点を基準に判断すべきであるから,その頃Xが当該商標を使用していたとの事実は,Xが平成20年11月頃に使用商標を使用した際に,Yの業務に係る商品との誤認,混同を生じさせるおそれのあることを認識し,かつこれを認容していたという上記認定を左右するものではない。
また,Xによる使用商標の使用が,Yの通知書による警告を契機としたものであったとしても,上記「multi ProGreens」との商標の使用について,Yから引用商標に係る商標権侵害を警告されていたXが,その商品に使用商標を使用することによって,Yの業務に係る商品との誤認,混同を生ずるおそれのあることを認識し,かつこれを認容していたことは明らかであり,Xによる使用商標の使用がYからの通知書による警告の後であるという事実も,上記認定を左右するものではない。
したがって,Xの主張は採用できない。

5 結論

以上の次第であるから,Xの請求は棄却されるべきものである。

4、商標登録することができたなら

登録商標は、商標登録をしたままの態様で使用することが原則です。
今回の場合も、Xは自社の登録商標のままで使用していれば、話は変わったかもしれません。
しかし、XはYからの警告状を受領し、対応すると返答していたにもかかわらず、実際には何らの対応もせずに放置していたことから、故意まで認定されてしまいました。

今回、ご紹介した商標法51条1項以外にも、登録商標と類似する商標を使用していたことに起因して商標登録が取り消されることがあると規定する条文がいくつかあります。
しかし、登録商標をその態様のまま使用していれば問題になることはほとんどありません。

商標登録の取消リスクを下げるためにも、登録商標はそのままの態様で使用するようにしてください。
もし、違う態様で使用するのであれば、再度、商用登録を受けるべきであると思います。

 

 

この記事は知財高判平成24年12月26日(平成24(行ケ)10187)を元に執筆しています。