登録商標を長年使用していると、時代に合わせて変更することもあると思います。
その場合、あまりにも変更の度合いが高いと、もともとの登録商標は別物と評価されてしまうことがあります。
これは深刻な問題を生じます。
自社の登録商標の権利範囲に含まれると思っていたら、実際には権利範囲に含まれず、阻止したかった他社の商標の使用を許してしまったり、最悪、自社の登録商標が使用されていないとして取り消される可能性が出てくるからです。

今回ご紹介するのは、登録商標に変更を加えたことで、もともとの登録商標を使用していないと判断されて取り消されてしまったという事件です。

1、もともとの登録商標と実際に使用していた商標

もともとの登録商標は「rhythm」という商標でした。
これに対して、実際に使用していたのは「NEO RHYTHM」又は「NEORHYTHM」という商標でした。
この商標は「NEO」の部分は白抜きとなっており、「RHYTHM」の部分はゴシック体になっていました。

2、どんな変更でも許されないのではない

商標法50条1項は,「継続して3年以上日本国内において商標権者,専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標,外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは,何人も,その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。」旨を規定します。
たとえ、登録商標に変更を加えたとしてもその変更前の商標と変更後の商標が社会通念上同一と認められる場合には変更後の商標の使用も登録商標の使用と認められるのです。
そして社会通念上同一と認められる範囲については
①書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、
②平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、
③外観において同視される図形からなる商標、
④その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標、
というように例示しています。

この社会通念上同一とされる商標について裁判所は次のように考えています。
同項(商標法50条1項)において,①書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標,②平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標,③外観において同視される図形からなる商標が例示されていることに鑑みれば,同項にいう「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」は,上記①ないし③に準ずるような,これと同程度のものをいうものと解される。
なお,文言上,登録商標と「同一」と認められるものでなければならず,「類似」の商標は含まれない。

3、「NEO RHYTHM」又は「NEORHYTHM」は「rhythm」と社会通念上同一の商標と言えるのか。

両商標は社会通念上同一といえるか

本件商標は,「rhythm」の文字からなり,「リズム」という称呼を生じ,「リズム」,「調子」という観念を生じるのに対し,使用商標は,いずれも,「NEO」の文字を伴って,「NEORHYTHM」又は「NEO RHYTHM」の文字からなり,「ネオリズム」という称呼を生じ,「新しいリズム」,「新しい調子」という観念を生じる。
そして,使用商標は,「NEORHYTHM」又は「NEO RHYTHM」の文字からなり,「NEO」の文字は白抜きで籠字風に表され,「RHYTHM」の文字は塗り潰しのゴシック体風の文字で表されているところ,①本件商標の書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標とはいえないし,②本件商標のローマ字の文字の表示を平仮名や片仮名に変更して同一の称呼及び観念を生ずる商標でもなく,また,③外観において本件商標と同視される図形からなる商標でもなく,これらと同程度のものということもできない。
よって,使用商標は,本件商標と社会通念上同一のものと認められる商標ということはできない。
なお,被告自ら,本件商標とは別個に,同様の指定商品(第25類「履物,乗馬靴」)について,「neorhythm」又は「neo rhythm」という別件登録商標の登録出願をした上でその商標登録を得ていることに照らしても,本件商標と使用商標とが社会通念上同一であると認めることはできない。

被告の主張について

(ア) 被告は,使用商標において「RHYTHM」の部分が要部となっているから,本件商標と社会通念上同一であると主張する。
しかしながら,前記認定の使用商標の態様並びに同認定の被告の婦人靴の取引の実情を総合すると,同一の大きさ,同一の書体で表された「NEORHYTHM」又は「NEO RHYTHM」の文字からなる使用商標において,「RHYTHM」の部分が取引者,需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとまではいうことはできない。
また,「NEO」の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないともいうことはできない。
よって,使用商標から「RHYTHM」の部分のみを抽出し,この部分だけを本件商標と比較して商標そのものの同一性を判断することは,許されない。
(イ) 被告は,籠字風に表示された「NEO」の文字部分は,塗り潰された状態で表示された「RHYTHM」の文字部分とは,視覚上異なり,その背景に埋没するような表示態様であって,看者をして「RHYTHM」の部分が強く印象づけられると主張する。
しかし,使用商標の文字は,いずれも同一の大きさ,同一の書体で表され,外観上まとまりよく一体的に表示されているのであって,籠字風に表示されたからといって,「NEO」の部分が捨象されるとはいえない。
(ウ) 被告は,「NEO RHYTHM」又は「NEORHYTHM」全体が既成の観念を有する成語として親しまれていないと主張する。
しかし,「NEO」は「新,新しい」なる意味を有する英語に通じ,また「RHYTHM」は「リズム,調子」なる意味を有する英語に通じる既成語として一般に親しまれている。
したがって,これらを結合した「NEO RHYTHM」又は「NEORHYTHM」については,それ自体が既成の成語として認識されていないとしても,「新しいリズム」,「新しい調子」なる意味合いのものとして理解することは容易であり,そこから「ネオリズム」という称呼が生じる。
(エ) 被告は,「NEO」が接頭辞であり,自他商品の識別力がないか極めて弱いと主張する。
しかし,接頭語として使用されるからといって,直ちに使用商標と本件商標とが社会通念上同一であるということはできない。
(オ) 以上のとおり,被告の主張は,いずれも採用することができない。

結論(商標の使用の有無)

以上によれば,商標権者である被告は,本件審判請求の登録前3年以内に,日本国内において,指定商品について,使用商標を使用していたことをもって,本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたとはいえないものである。

4、登録商標の使用について

このように裁判所は法律の条文を厳格に適用し、本件の登録商標を取り消したのですが、正直言って、かなり厳しい判断だったと思います。
この判決を前提とする限り「社会通念上同一」の範囲はかなり狭いものと考えて方がよいでしょう。
安易に商標の変更をしないか、変更するのであれば、事前に商標調査を行い、商標登録しなおすことも考えた方が良いと言えます。

 

 

この記事は知財高判平成25年3月21日(平成24(行ケ)10382)を元に執筆しています。