商標登録しようと考えて先行登録商標を調査すると、自社が考えていた商標と類似する商標が登録されていたということがよくあります。
このような場合でも、本当に商標登録は認められないのでしょうか。

今回は、出願した商標に類似する文字が先登録商標に含まれていた場合でも商標登録が認められた例をご紹介します。

1、問題となった商標

出願人は「ファンタジーライフ」という商標を商標登録しようと考えていましたが、次のような商標が先に商標登録されていました。

ファンタジーライフ

特許庁はこの登録商標の存在を理由に原告の「ファンタジーライフ」は商標登録できないと判断したので、それを不服として裁判に訴え出たという事件です。

2、商標登録の可否についての特許庁での判断

(1) 本願商標(原告の商標「ファンタジーライフ」)と引用商標(上記の先登録商標)とは,外観において相違するものであるが,「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」の観念において共通にするから,両商標は類似し,指定商品及び指定役務も同一又は類似の商品及び役務を含むものであるから,本願商標は,商標法4条1項11号に該当する。
(2) その理由として,本願商標については,その構成中「ファンタジー」の文字が「空想。幻想。」,「ライフ」の文字が「生活。暮し。」の意味であることから,「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」程の観念を生ずると認定した。
(3) 引用商標については,「fantasy LIFE」の文字部分と「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分とは,視覚上及び意味上においてこれらを常に一体不可分のものとして把握しなければならないとする特段の事情はなく,それぞれが独立して自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たすものといえるから,引用商標全体から生ずる称呼及び観念のほかに,「fantasy LIFE」の文字部分に相応した「ファンタジーライフ」の称呼及び「空想生活」程の観念をもって取引に当たることも少なくないとみるのが相当であると認定した。

3、商標登録の可否についての裁判所の判断

1 本願商標と引用商標の外観,観念,称呼及び取引の実情等について

(1) 外観について

ア 本願商標
本願商標は,「ファンタジーライフ」の文字を標準文字で横書きしてなるものである。
イ 引用商標
引用商標は,あたかも幼児が手書したかのような印象を与えるデザイン化して表された「mabinogi」の欧文字と,その「bino」部分の下に同文字よりやや小さく袋文字風に表した「マビノギ」の片仮名を書し,さらに,「mabinogi」の文字の右上方に「fantasy」の欧文字を書し,それに続けて黒色長方形内に白抜き文字で「LIFE」の欧文字を書してなるものであり,「fantasy LIFE」の部分は,「mabinogi」及び「マビノギ」の部分(以下「『mabinogi/マビノギ』の部分」という。)に比し,高さは約5分の1,幅は約2分の1の大きさである。
ウ 以上のとおりであり,本願商標は,「ファンタジーライフ」との標準文字からなるのに対して,引用商標は,上記のような特徴的な書体で表された「mabinogi/マビノギ」の部分と,右上方の「fantasy LIFE」の部分からなるものであり,両者は外観において著しく異なるものである。

(2) 観念,称呼について

ア 本願商標
本願商標は,「ファンタジー」と「ライフ」により構成されているが,標準文字からなる「ファンタジーライフ」の各文字は,同一の大きさで,等間隔にまとまりよく配列されていること,「ファンタジー」と「ライフ」との間に切れ目がないこと,「ファンタジー」は「空想。幻想。白日夢。……」の意味を,「ライフ」は「生活。暮し。……生涯。人生。」等の意味を有するいずれもよく知られた語(広辞苑第6版。)であり,これら「ファンタジー」と「ライフ」とを結合したものと容易に理解,把握されるものであると認められる。
そうすると,本願商標は,取引者,需要者から「ファンタジー」と「ライフ」とを結合したひとまとまりのものとして認識され,その構成文字全体から「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じるものであり,また,「ファンタジーライフ」の称呼が生じるものである。
イ 引用商標
引用商標は,上記(1)イのとおり,「fantasy LIFE」の部分と「mabinogi/マビノギ」の部分とからなるが,両部分は,文字の種類及び大きさが異なっているから,分離して認識されるものと認められる。そして,「fantasy」は「空想,夢想,ファンタジー」を,「LIFE」は「生命」「生物」「人生」「生活」を意味するいずれも平易な英語(ベーシックジーニアス英和辞典。乙4)であり,「fantasy LIFE」は,この2つの英単語を結合したものと容易に理解,把握されるものであるから,同部分のみを抽出した場合,「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じ,また,同部分から生じる称呼は,「ファンタジーライフ」であると認められる。
他方,「mabinogi」及び「マビノギ」の文字部分中,「マビノギ」は「mabinogi」の読みを表したものと容易に認識されるものであり,「mabinogi」の欧文字は,「Mabinogion(『マビノギオン』:ウェールズの中世騎士道物語集)」(ランダムハウス英和大辞典第2版。)に収録されている物語の題号の1つである「マビノギ(Mabinogi)」を指すものである(Wikipedia。)が,一般になじみのある語であるとは認められない。
したがって,「mabinogi/マビノギ」の部分からは,特定の観念を生じないか,上記由来を知っている者には物語の題号の1つである「マビノギ」の観念を生じさせるものと認められる。
また,同部分から生じる称呼は,「マビノギ」であると認められる。
ウ 以上のとおりであり,本願商標は,「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じ,「ファンタジーライフ」の称呼を生じるものであるのに対して,引用商標は,「fantasy LIFE」の部分のみを抽出した場合,「空想生活」ないし「空想上の人生」程の観念を生じ,「ファンタジーライフ」の称呼を生じるということができるが,他方,「mabinogi/マビノギ」の部分からは,特定の観念を生じないか,物語の題号「マビノギ」の観念を生じ,「マビノギ」の称呼を生じるものである。

(3) 取引の実情等

本願商標の指定商品及び指定役務は,引用商標の指定商品及び指定役務である第9類「オンラインゲームのためのコンピューターソフトウェア,コンピューターゲームのためのソフトウェア,その他のコンピューター用ソフトウェア」及び第41類「インターネット上でのオンラインゲームの提供」を含む点で共通している。
そして,これらコンピュータゲームの分野において,「ファンタジー」の語は,ゲームのジャンル(「空想上の人生・生活を体験することを内容としたゲーム」)を指すものとして使用されていることが認められる。

2 判断

(1) 当裁判所は,本願商標と引用商標とは,外観において著しく異なり,観念及び称呼において共通する部分があるものの,引用商標の構成及び取引の実情等を考慮するならば,類似するとは認められないから,本願商標が,商標法4条1項11号に該当するとした審決は誤りであると判断する。
その理由は以下のとおりである。
(2) 商標法4条1項11号に係る商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察すべきものであり,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決,同平成20年9月8日第二小法廷判決)。
そこで,これを本件についてみると,引用商標は,「fantasy LIFE」の部分と「mabinogi/マビノギ」の部分とからなる結合商標と解されるところ,「mabinogi/マビノギ」の部分は,「fantasy LIFE」の部分よりも大きく(高さは約5倍,幅は約2倍)かつ特徴的な書体で表され,同部分からは特定の観念を生じないか,物語の題号の1つである「マビノギ」の観念を生じさせるから,造語ないし固有名詞として認識され,取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。
また,同部分から「マビノギ」の称呼が生じることは明らかである。
他方,「fantasy」の語は,「空想,夢想,ファンタジー」を意味する平易な英語であって,「ファンタジー」の語は,コンピュータゲームの分野においてゲームのジャンル(「空想上の人生・生活を体験することを内容としたゲーム」)を指すものとして使用されているから,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分は,取引者,需要者にコンピュータゲームのジャンルを示すものと認識されることが多いものと認められ,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められない。
上記のとおり,引用商標の構成中,「fantasy LIFE」の部分が取引者,需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認めることはできず,他方,「mabinogi/マビノギ」の部分から出所識別標識として固有の称呼を生じ,観念を生じ得るのであるから,引用商標の構成中「fantasy LIFE」の部分だけを抽出して本願商標と対比することは許されないというべきである。
そして,本願商標と引用商標の構成部分全体を対比すると,両者は外観において著しく異なり,観念,称呼において一部共通するものの,取引の実情を考慮するならば,類似するとはいえない。
したがって,本願商標と引用商標の類否について,外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,具体的な取引状況に基づいて全体的に考察すると,本願商標と引用商標が,役務における出所の誤認混同を生じるおそれはなく,両商標は類似しないから,本願商標が商標法4条1項11号に該当するとした審決の判断には誤りがある。
(3) 被告は,「ファンタジー」の語が「ファイナルファンタジー」のように他の語と結合して自他商品・役務の識別力を有する造語を形成する場合があると主張する。
しかし,コンピュータゲームの商品名に「ファイナルファンタジー」のように「ファンタジー」の語を含むものがあるとしても,「ファイナルファンタジー」は「ファンタジー」のジャンルに属するコンピュータゲームであると認められるから,「ファンタジー」の語自体が商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるということはできず,被告の主張は理由がない。
また,被告は,商品又は役務に係るゲームソフトウェア及びその他のソフトウェアにおいては,その商品又は役務を識別する標章として,ソフトウェアの内容を示すタイトルのほかに,該ソフトウェアの制作会社等に係る標章を表示してあることが少なからず存在するものであり,また,該標章は,タイトルよりも小さく表示されていることが一般的であると主張し,乙7~15には,ソフトウェアの内容を示すタイトルのほかに該ソフトウェアの制作会社等に係る標章をタイトルよりも小さく表示してあることが認められる。
しかしながら,そうであるからといって,引用商標において「fantasy LIFE」の部分が,同部分より大きくかつ特徴的な書体で表された「mabinogi/マビノギ」の部分より商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるとは認められない。
被告は,他にも縷々反論するが,上記判断を左右しない。
(4) よって,原告主張の取消事由には理由があるから,審決は違法として取り消されるべきである。

4、これから商標登録する際に

このように、裁判所はあくまでも商標が類似するか否は全体同士で比較すべきであるとし、両商標は類似しないと結論しました。
原告の側からすると、自社の商標が無事、商標登録できてほっとしたことでしょう。
しかし、引用商標の商標権者側からすると、自社の商標にも「fantasy LIFE」と入っているのにと思ったかもしれません。

これは非常に微妙なところで、商標を使用する分野における「取引の実情」を丁寧にみていく裁判所での判断だからこそ、今回の両商標は非類似判断されたのだと思います。

もし、似たような事例が今後あればどうなるのか。
ある程度、画一的な判断をせざるを得ない特許庁での判断では、今回と同じように拒絶され可能性が否定できません。

もし先行商標調査でこのような商標が見つかった場合は、変更可能な商標であれば変更してしまうのも一つの手かもしれません。
もうすでにマーケティング調査も行って商品開発も進めてしまっているのであれば、早く出願して、何とか登録までこぎつけることが必要となるでしょう。

 

 

この記事は知財高判平成24年7月12日(平成23(行ケ)10372)元に執筆しています。