ヘルプマークというものがあります。
東京都のウェブサイトによると
「義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見から分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマークです。
―中略―
ヘルプマークを身に着けた方を見かけた場合は、電車・バス内で席をゆずる、困っているようであれば声をかける等、思いやりのある行動をお願いします。」
という啓蒙活動のためのマークのことです。
先日、このマークが東京以外でも導入されはじめ、普及を目指すというニュースが報道されていました。

ヘルプマーク
ヘルプマーク

 

 

 

 

 

さて、このような啓発用のマークというものは他にもたくさんあり、それぞれ、より知ってもらおうと日々の活動を行っておられるようです。

このヘルプマークもより多くの方に使用してもらうために「ヘルプマークを作成、デザインを活用されたい場合は「ヘルプマーク作成・活用ガイドライン」を御覧ください。」として使用についてのガイドラインを定めて公開しています。
ご興味のある方は「ヘルプマーク 東京都福祉保健局」で検索してください。

そして、ここからが本題です。
弊所が商標専門を謳う事務所であるにもかかわらず、なぜこのマークを取り上げたのか。
実はこのヘルプマーク商標登録されているのです(登録番号第5624913号)。
不適切な使用を避けるためとか、営利目的で利用されないためとか、商標登録をしたことについては色々考えられるのですが、本当に商標登録が必要なのでしょうか。

商標登録は保護してほしい「商標」と、その商標を使用してどのような商品を販売するのかという「指定商品」をセットにして出願する必要があります。
では、ヘルプマークがどのような商品を指定しているのかといえば、第20類「要支援者表示プレート(金属製のものを除く。),ネームプレート及び標札(金属製のものを除く。),アドバルーン,木製又はプラスチック製の立て看板」が指定されています。

商標とは書いて字のごとく、「あきない(商い)のしるし(標)」です。
商標の使用というためには「自他商品識別機能ないし出所表示機能を有する態様で当該商標を使用すること」が必要とされています(「商標的使用」といいます)が、東京都が狙いとする啓蒙活動が、商標の使用というには若干の疑問があります。
東京都はこのマークをブランドとして標札やバルーン看板で商売をするということは考えにくいですし。

たしかにある標識(マーク)を保護するには商標登録を受けることが簡単かつ実効性が高い方策です。
しかし、商標法での保護にも限界はあります。
ヘルプマークの悪用を防止したいという保護の重要性は理解できますが、その保護を商標の下で受けようとすることには無理があるのではないでしょうか。

これは今回ご紹介したヘルプマークに限ったことではありません。
商標的に使用されていない標識はたとえ商標登録されたとしても裁判実務ではその効力範囲が制限されて結局使い物にならないということもありうるのです。
あまり問題とされる場面は多くないのですが、商標登録する際にはその商標が本当に「商標的に使用」されているかもう一度確認する必要があります。
その商標、本当に商標的に使用されていますか?