商標権の効力は日本全国に及びます。
インターネット環境が整う前(かなり昔の話になりますが)は、営業範囲が被らないと、自社商標の不正使用を察知すること自体ができませんでした。
そこで、全国的に営業を行っている大企業が中心となって商標登録をしていたのです。
しかし、時代が移り変わってネット社会を迎えると、ちょっと検索するだけで、自社商標と同一又は類似する商標の使用状況を簡単に把握できるようになりました。
そこで、中小企業や起業後間もない会社でも、速やかに商標登録をして自社商標を保全する必要性が生じるに至ったのです。

とはいえ、「周りでは商標権侵害なんて聞いたこともないし、地方で営業していてほんとに商標登録なんて必要なの?」という疑問も解らないではありません。

さて今回は、商標権侵害はどこでも起こりうるということの1例を示したいと思います。
弊所は大阪の中心まで電車で約20分弱という立地にあります。
大阪では田舎扱いされることもある小さな市ですが、こんなところでも先日、判例集に掲載されるような、商標を巡る紛争がありました。

1、商標権侵害事件の概要

訴えの原告となったXは「ライサポ」という商標について高齢者介護等を指定役務とする登録商標を有していました。
訴えの被告となったYはホームヘルパーの派遣等を行うNPO法人でしたが、そのウェブサイト中に「ライサポいけだ」、また当該ウェブサイトのドメイン中に「lispo-ikeda」の文字が含まれていました。
そこで、Yのウェブサイトの表記は自社の商標権を侵害するとしてXが訴え出たのです。

2、裁判所の判断

(1)「ライサポいけだ」の表記について。

Yのウェブサイト上には「特定非営利活動法人 ライフサポートネットワークいけだ」とタイトル的に大きく記載されていた一方で、「ライサポいけだ」は本文中に略語として記載されているに過ぎないとしました。
つまり、本件では、商標法が保護する商標の商標的使用には当たらないと判断されたのです。
商標的使用とは、その商標が指すサービス提供主体が誰なのかを特定するような形での商標の使用態様を言います。
もっと簡単に言うと、商標の表示と営業が結びついていないではないかということです。

(2)ドメイン中に「lispo-ikeda」の文字について。

こちらは簡単に類似する要素が無いと判断され、商標権侵害に当たらないとされました。

3、教訓

略称・愛称については注意が必要です。
今回紹介した事件では、商標権侵害が否定されましたが、これは限界事例であると考えるべきでしょう。
ウェブサイト上には、Yが介護事業を行っていることが表示されていたのだから、商標的使用を肯定することもあながち無理ではないように思われます。
裁判所の認定では、Yのウェブサイトにおいてサービス提供主体と捉えられるのは「特定非営利活動法人 ライフサポートネットワークいけだ」であり、「ライサポいけだ」ではないとされました。
ウェブサイトのイメージとして、次の上の場合にはセーフと今回は判断されたということでしょう。
ただ、下の場合はアウトの判断がなされる可能性も否定できないと思われます。

ライサポ

略称・愛称についてもその使用には他者の登録商標と類似しないかぐらいは調査しておくことが必要でしょう。
また、できれば商標登録しておくことが望ましいということがこの事件からの教訓です。

なお、ドメイン中の「lispo-ikeda」が「ライサポ」と類似する要素が無いとされたのは自明のことでしょう。
類似主張はかなり無理があったと考えます。

この記事は大阪地判平26.6.26(平25(ワ)12788)を元に執筆しました。