「商標登録したいと思って、自社で調べてみると既に同じような商標が見つかったのですが、これでも登録できますか?」
「類似する商標は無いと考えて看板を挙げていたら警告を受けたのですが、変更しなければなりませんか?」
このような質問を時々受けることがあります。
お話しを詳しくお聞かせいただくと、1つの商標の中にも重要な部分とあまり重要な部分があるということを知らなかったばかりに、このような質問をされていることがわかります。
そこで、今回は、商標の中の重要な部分(これを商標の「要部」といいます)が類似関係に及ぼす影響を1つの事件を例にお話しします。
1、どんな事件か
原告Xは「スターデンタル」という登録商標で歯科医業を営んでいました。
また被告であるYは「赤坂スターデンタルクリニック」という商標(未登録の商標です)の看板を掲げて、同じく歯科医業を営んでいました。
そこで、XがYに対して、商標権侵害を主張して訴えを提起しました。
2、裁判所の判断
まず、Xの登録商標からは「スターデンタル」の称呼(音読した時の発音)が生じることを認定した上で、Yの商標からは「アカサカスターデンタルクリニック」の称呼の他、この称呼が比較的長いことから省略されることもありうるとして「アカサカスターデンタル」、「スターデンタルクリニック」、「アカサカスター」、「スターデンタル」の計5通りの称呼も生じるとしました。
その上で、次のように判断し、両商標は類似すると結論付けました。
理由1
全体通しを対比した場合、両商標では「スターデンタル」の部分が共通し、異なる部分「赤坂」と「クリニック」の部分の識別力が乏しい。
理由2
Yの商標から派生する略称についてはXの登録商標と同一か、Xの商標に識別力の乏しい文字を付記したものにすぎない。
理由3
Yの商標から派生する略所のうち「赤坂スター」は、そのように略す可能性はあるが、一般的には少ないといえるから、Xの登録商標との類似判断に関しては重視すべきでない。
3、解説
ポイントは、この判決の理由の中で出てくる、「識別力」という言葉です。
この「識別力」とは、その商品やサービスがどの会社の商品やサービスかをほかの会社の商品やサービスから区別できる力のことを言います。
そして、特許庁や裁判所では、地名や、商品やサービスの機能・品質・業態名は独占されることを防ぐために識別力が無い又は弱いとして扱われているのです。
そこで、これらの識別力の弱い言葉を商標の中から除外して、残りの部分で対比しようとします。
今回の事件では「赤坂」は地名を、「クリニック」は業態名を表示する言葉ですので識別力が弱く、それ以外の部分「スターデンタル」で対比するとされたというわけです。
4、教訓
このように、商標の中にも識別力が弱く、他の商標との比較判断をする場合に除外される部分があるということ理解しておくことは、商標登録をする場合にも、他社の登録商標との抵触を避けるためのも重要です。
「大阪○○」という商標を登録しようとして、調べてみたら既に「大阪△△」という商標が登録されていたとします。
この場合たとえ「大阪」の部分が共通していても、「○○」の部分と「△△」の部分が類似していると言えないのであれば登録できる可能性があるということです。
また、今回の事件の様に、登録商標に識別力の弱い部分を付け加えたとしても結果として、類似と判断され商標権侵害が成立することもあるのです。
これから商標登録しようとお考えの場合も、商標登録までは考えていないけど新商品や新サービスを始めようとお考えの場合も、その商標中、重要な部分と重要でない部分が存在する場合もあるということは頭の隅にとどめておいてください。
この記事は東京地判H25.11.21(東京地裁H24(ワ)25470号)をもとに執筆しています。