突然、商標権侵害だと言われたら~先使用権の考察~

突然、「御社の商品名やサービス名が自社の商標権を侵害する」という警告書が届いたら、どうしますか。
あきらめて、他の名称に替えますか。

もしかしたら、名称の変更をしないで済むかもしれません。
そのために役立ちそうな権利が「先使用権」です。

1、商標法の規定

商標法第32条は「先使用による商標の使用をする権利」について次のように定めています。

①他人の商標登録出願前から日本国内において不正競争の目的でなくその商標の使用をしていた結果、
②その他人の商標登録出願の際、現にその商標が自己の業務に係る商品又は役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されているときは、
その者は、継続してその商標の使用をする権利を有する。

ただ、この規定を見てもよくわからないと思う人が多いのではないのでしょうか。
今回は実例をもとに、特に②の要件(これを周知性要件と言います)について、どのような場合なら先使用権が認められるのかを考えたいと思います。

2、先使用権における周知性の一般論

先使用権が認められるための周知性にについて、一般論としては、
その商標の使用期間、
販売または売り上げの実績、
商標を用いた広告掲載やメディアへの露出の実績、
等により判断されます。

3、具体例

まず、今回取り上げる事件では、Yがある商標をしようしていたところ、Xから自社の商標権(平成18年1月13日に出願のもの)を侵害すると訴えられたので、Yがこの先使用権を主張したというものです。

一、①の不正競争の目的について

この点、特に判決は何も指摘していないのですが、Yがその商標を使用していた商品を販売するに至った経緯を丁寧にみていくことで、実質的にYに不正競争の目的は無かったとしているように見えます。
現実には複雑な経緯をたどります
詳細は割愛しますが、もともとYが販売していた商品はA社が開発したものでした。
そして、Yが販売する以前も別の会社が何社か販売していたのですがA社との関係が悪化したりして契約が解消され、最終的にYが契約を締結し、平成17年10月20日には商標を使用していました。
Xの登録商標が出願されたのが平成18年1月13日なので、Yの使用の方が早かったと言えます。

二、②の周知性について

設計図の存在

Yは周知性を示す証拠として、Yの販売する商品の設置設計図を示します。
しかし、その設計図の日付がYがA社と契約を締結した以前のものであったため、その設計図はY社のものではなく、Y社以前に販売を担当していた会社のものであると認定されてしまいました。
また、設計図にはYのウェブサイトのURLが記載されていましたが、ウェブサイトの開設時期と設計図の作成日付の矛盾も指摘されました。

パンフレットの存在

また、パンフレットの存在も主張しましたが、「作成したパンフレットを,平成18年1月13日のXの商標の商標登録出願前までに,どの程度の部数,どのような方法で,どのような者を対象として配布したのかについては,明らかではなく,パンフレットの作成という上記事実をもって,各被告標章が被告の製造・販売する電気式床暖房装置を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識されていたとまでいうことはできない」とされました。

販売実績

Yの販売実績が少なかったこともマイナスに評価されました。
Xの商標が出願されるまでのYの販売実績は13か所にすぎないので、この程度の使用により,Yの商標がYの販売する商品を表示するものとして,取引者・需要者の間に広く認識されていたということはできないというべきであるとされたのです。

4、教訓

まず、大前提は新商品や新サービスを開始する前に、商標登録をしておきましょうということです。
今回の事件はそもそもA社が商標登録をしていればよかっただけともいえる事件でした。
先使用権は、登録商標の権利範囲が及ばない例外を認めるものであり、認定が難しいと言えます。
今回の事件から学ぶものがあるとすれば、やはり、パンフレットの配布先や数量はきちんと管理し、文書に残しておくこと、商品の販売を始めたなら、出来るだけ早期に販売数を拡大することといったことでしょうか。
商売の基本ともいえることですが、これができてないとなかなか裁判所は先使用権を認めてくれなさそうです。

先使用権は裁判所が認めてくれると便利な権利ですが、やはり、商標登録できる場合は速やかに登録した方が無用な紛争を呼び込まないと言えます。

 

 

今回の記事は東京地裁平成22年10月14日(平成21(ワ)10151)もとに執筆しています。