当たり前の話ですが、商標登録をすることで国による強制力をもって自社のブランドを保護してもらうことができます。
国による保護を求めるには、保護に値する商標でなければなりません。
では、どんな商標が保護に値するのか。
それは1つには、現に使用されている商標です。
自社ブランドとして使用していない商標は、たとえ商標登録していても取り消すことができるとされているのです。
しかし長年、商標を使用していくにつれ、書体を変えてみたり、アルファベットにしてみたりとデザインを少し変えることがよくあります。
このような変更でも登録商標と少しでも違えば、登録商標の使用とは言えなくなるのでしょうか。

今回取り上げるのは、使用商標が登録商標とは異なるとして、不使用を理由に取り消された事件です。

1、どのような商標事件か

取り消しを請求された商標権者は「パール」という登録商標を持っていましたが、実際に使用していたのは「パールフィルター」という態様の商標でした。

2、登録商標についての裁判所の判断

本件各広告における「パールフィルター」の商標が、本件商標と社会通念上同一の商標といえるか否かについて判断する。
本件広告の「パールフィルター」は、本件商標の指定商品であるたばこのフィルターを指す語であって、これをフィルター付きたばこに使用した場合、それ自体識別力を有しない語である。
これに対し、「パール」の文字は、真珠という意味の英語であり、日本人によく知られている言葉であるから、これをたばこという商品に使用した場合に、自他識別機能を有する商標となり得るものである。
しかし、前記認定のとおり、本件各広告においては、「パール」は、本件商品の二次的ブランドである「パールフィルター」の商標の一部として使用されているにとどまるものである。
「パールフィルター」の商標は、本件商品の二次的ブランドとして使用されているものである以上、取引者及び需要者はこれを一連一体のものとして認識し、把握するものであって、「パール」のみを分離して認識し、把握するものではない。
したがって、本件各広告において使用されている「パールフィルター」の商標は、本件商標と社会通念上同一の商標であるということはできない。

3、これから商標登録するための教訓

この事件は、特許庁では「パール」と「パールフィルター」は社会通念上同一の商標と認定され取り消しを免れていましたが、その判断を不服として裁判所に出訴されたものです。
そして、裁判所は同一の商標の使用とは認めず、登録商標の取り消しを認めました。

登録商標は使用し続けることでそのブランド価値を高めていくものです。
商標登録は原則として10年ごとに更新していく権利ですので、時代の流れにより細部を変更して使用することも、多々あることだと思います。

しかし、本件が示すように、同一の商標の使用と認められる場合は限られています。

最初に述べた、書体を変えただけの商標、ひらがな・カタカナ・アルファベットを相互に変更しただけのものなどは「社会通念上同一」とされていますが、登録商標に無い部分を追加したり、逆に登録商標の一部分を切り取って使うことには取り消しのリスクが付きまといます。

「登録商標は登録した態様で使う」
これが原則であるということを、ぜひ忘れないようにして下さい。

 

 

この記事は知財高判平成25.12.25(知財高裁平成25(行ケ)10164)を元に執筆しています。