商標登録しようとする商標が複数の構成部分から成り立っている場合に、その一部と類似する登録商標が既にあるとします。
この場合、一部でも似ている部分があれば全体としても似ているとして登録を拒絶されるのでしょうか。
1、今回取り上げる商標登録にかかる商標と、引用商標
今回取り上げるのはこのような商標が類似するか否かが争われた事件です。
さて、この2つの商標は類似すると思いますか?
2、商標の類否についての裁判所の判断
商標の類否は、同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察し、商品の取引の実情に基づいて判断すべきであり、以下、この観点から判断する。
1 事実認定
(1) 本件商標について
ア 外観
本件商標は、漢字と英語からなる「美実PLUS」の文字が横書きにより大きく表記され、平仮名からなる「びみぷらす」の文字が「PLUS」の文字の下方に横書きにより小さく表記され、また、「美実PLUS」の文字全体の中央部で、かつ漢字「実」の右斜め上方に、木の葉様の図形が表記されている。
「美」、「実」及び「P」の3文字は、水平に描かれた直線を共有するように表記され、また「L」及び「U」の2文字は、文字の一部が互いに交差するように描かれている。
また、漢字「実」の「ウ冠」は、丸みを帯びるよう描かれている。
本件商標は、中央上部に木の葉様の図形を配置し、「実」の「ウ冠」部分、「P」、「U」及び「S」の丸みを帯びるような曲線でバランス良く描かれた点にデザイン上の特徴があるといえる。
上記のとおり、本件商標は、まとまりのある調和のとれた文字と中央に配置された葉様の図柄からなり、全体として一連一体のものとしての外観を有する。
イ 称呼及び観念
平仮名からなる「びみぷらす」の文字が「PLUS」の文字の下方に横書きで小さく表記され、同文字部分は、称呼を示していると理解されることに照らすと、本件商標から「ビミプラス」の称呼を生じる。
また、本件商標から、何らかの確定的な観念を生じさせるか否かは不明である。
指定商品との関係では、「ビミ」との称呼により「美味」が連想されることから、全体から「美味しさを増した」ほどの観念を生じる余地があり得るといえる。
(2) 引用商標について
ア 外観
上段に「TON’S」の文字を、太字により横書きで小さく表記し、中央に「美実」の文字を、金字体と称される書体で大きく縦書きに(上下に)表記された商標である。
イ 称呼
引用商標は、「TON’S」の文字からは「トンズ」の称呼を、「美実」の文字からは「ビジツ」、「ビミ」の称呼を生じ、また、全体を併せると「トンズビジツ」、「トンズビミ」を生じ得るといえるが、確定的な称呼を生じるとまではいえない。
ウ 観念
取引の実情をも踏まえて、判断する。
(ア) 「TON’S」の文字部分について
原告の会社概要によれば、原告の商号「東洋ナッツ食品株式会社」の先頭に「TON’S」「トン」との表示が併記されていること、原告の事業内容として、「世界の木の実(ナッツ、ドライド・フルーツ類)の製造販売、トンブランドの製造販売」が説明、記載されていること、会社沿革によれば、既に昭和34年には、「トンブランドの製品」の発売を開始したこと、昭和40年にトンブランド・ゴールデンミックスナッツ等の販売を開始したこと、製品の運搬に用いられるトラックには「TON’S BRAND」と表記されている旨説明されていること、原告各商品紹介のためのウエブサイトには、ほぼ例外なく「TON’S BRAND」との表記がされていること、原告は「TON」や「TON’S」を含む商標を複数登録していることが認められる。
(イ) 「美実」の文字部分について
「美実」の文字部分中、漢字「美」は「美味しい」、「味がよい」、「美しい」を意味し、漢字「実」は「果実」を意味する。
特に、原告の会社概要によれば、原告は、木の実(ナッツ、ドライド・フルーツ類)の製造、販売を主として実施している実情があり、そのような点をも考慮するならば、需要者は、「美実」の文字部分について、美味しい木の実(果実)ほどの意味であると認識、理解するものと解される。
(ウ) そうすると、引用商標について、需要者は、「TON」「トン」(すなわち原告である「東洋ナッツ食品株式会社」)の製造、販売に係る美味しい木の実(果実)、又は木の実(果実)の含まれた「菓子及びパン」を連想するものと解される。
2 本件商標と引用商標の類否について
上記の認定に基づき、取引の実情を考慮して、本件商標と引用商標の類否について判断する。
(1) 外観
本件商標は、漢字と英語からなる「美実PLUS」の文字が大きく横書きで表記され、平仮名からなる「びみぷらす」の文字が「PLUS」の文字の下方に横書きで小さく表記され、また、「美実PLUS」の文字の中央部で、漢字「実」の右斜め上方に、木の葉様の図形が表記されている。
これに対し、引用商標は、上段に「TON’S」の文字が、太字により横書きで小さく表記され、中央に「美実」の文字が、金字体と称される書体で縦書きにより大きく表記されている。本件商標と引用商標とは、外観において類似しない。
(2) 称呼
本件商標からは、「ビミプラス」の称呼を生じる。これに対し、引用商標からは、「TON’S」の文字からは「トンズ」の称呼を、「美実」の文字からは「ビジツ」、「ビミ」の称呼を、全体からは「トンズビジツ」、「トンズビミ」の称呼を、それぞれ生じ得るといえるものの、確定的な称呼を生じるとまではいえないが、いずれの称呼が生じるとしても、本件商標と引用商標とは、称呼において、類似する点はない。
(3) 観念
本件商標からは、指定商品との関係では、「ビミ」との称呼から「美味」が連想されることから、全体から「美味しさを増した」ほどの観念を生じる余地がないとはいえないが、何らかの確定的な観念を生じさせるか否かは不明である。
これに対し、引用商標は、指定商品である「菓子及びパン」に、「出所を示すブランド名」と「食品の材料及び品質を示す文字」とが併記されるものであることから、引用商標からは、需要者は、「TON」「トン」(すなわち原告である「東洋ナッツ食品株式会社」)の製造、販売に係る美味しい木の実(果実)又は木の実(果実)を含んだ「菓子及びパン」を連想するものと解され、両商標は、類似しない。
3、これから商標登録する際の教訓
このように、今回取り上げた2つの商標は類似しないという結論になりました。
この事件からの教訓としては、
①複数の部分から構成される商標については、デザインを統一感のあるものにして、構成部分ごとでなく商標全体として判断されるようにしておくと既に登録されている商標との比較において有利に働くことがあるということ
②商品名と、会社名を一つにまとめて商標登録するとその会社名が他の商標との比較において類否判断に不利益になることもあるということ
が、あげられます。
①については、通常「プラス」という部分は商標の基本的な機能である自社と他社の商標を識別する機能が弱く、類否判断において省略される可能性がある部分ですが、今回の事件ではデザインの統一性から、「プラス」部分を省略して判断せず、全体で1つの商標であると認定されて、結論に対して有利に働いています。
これに対して、②については、会社名を入れたことから、「観念」が生じることになり結果として結論に対して不利に働いてしまいました。
ただ、出願する商標によっては会社名を入れざるを得ないものもあるので、この点は商標登録出願をする際に注意しておかなければなりません。
一見似ている部分があるとしても、今回取り上げた事件の様に類似しないと判断されることもあります。
諦めないで、一度、商標登録出願してみませんか。
この記事は、知財高判平成26.2.27(平成25(行ケ)10175)を元に執筆しています。