ロゴマークやキャラクターなどの図形を商標登録しようとした際に、まずは、似たような商標が既に商標登録されていないかを調査します。
この調査により、登録しようとする商標と似ている商標が登録されていたとしても、簡単には諦められないはずです。
そこで、本当に特許庁で似ている商標として判断されるのか、つまり
×『「一般人の感覚として」その「図形」が「似ている」か否か』ではなく、
○『「特許庁により」(法律上)その「商標」が「類似する」か否か』
を判断しなくてはなりません。

1、2つの商標を対比するときの観察の仕方

これは、図形だけではなく、すべての商標の共通することですが、対比する商標を2つ横に並べて比べてはいけません。
実際の取引の場面では、①2つの商品を手に取って比べることもあれば、②以前かった商品を売り場で探すこともあります。
そこで、後者の②の場合でも消費者が間違えるほど似ているのかを問題としなければならないのです。
この観察方法を「離隔的観察」といい、古くから実務上用いられている観察方法になります(最判昭和25.11.10(昭和24(オ)134))。

「時と場所を違えたとしても、その商標を付けた自社製品と他社製品を消費者は混同するのか。」

これが、「商標」が「類似」するか否かを判断する際の基本的な観察方法となります。
そして、図形商標の対比についても「取引者・需要者が、図柄によって構成される商標について、必ずしも、図柄の細部まで正確に観察し、記憶し、想起してこれによって商品の出所を識別するとは限らず、商標全体の主たる印象によって商品の出所を識別する場合が少なくない。これは、我々の日常の経験に照らして明らかである。」(東京高判平成12.9.21(平成12(行ケ)147))とされています。

2、図形商標が類似するとされる場合の判断基準

これまで、図形商標を対比する際の観察方法についてみてきました。
つぎは、そのように観察した結果、両商標が類似するとされる判断基準を見ていきます。
商標登録をする際に特許庁で審査を担当するのは審査官と呼ばれる方たちです。
この審査官の間の判断にばらつきが生じないように、商標登録の審査に関しては審査基準なるものが定められています。
しかし、図形商標の類似に関しては審査基準が定められていません。
図形の類似度は感覚によるところが大きく、「基準」というものを制定することの無理があるのかもしれません。
そこで、特許庁では、類似か否かは両商標が「構成の軌を一にする」か否かによって判断されているというのが現状です。
また、多くの特許庁の判断を見ていますと、「写実的なデザイン」は「擬人化されたデザイン」「デフォルメされたデザイン」「幾何学的なデザイン」と類似しないとされていることがわかります。
とはいえ、「構成の軌を一にする」か否かというだけではわかりにくいと思います。
そこで、次は特許庁や裁判所で実際に類似するかどうかが争われた事件を通して具体的にみていきたいと思います。

3、図形商標が類似するか否かの具体例

<例1>

まずは分かり易いところから。
この2つの商標は類似するでしょうか。

ロゴ説明用(Yのロゴ)

左の商標を商標登録しようとした際に、既に右の商標が登録されていました。
この事件では、図形部分が同一と言ってよいものなので、出願商標に図形部分以外の部分が含まれていても、全体で類似するとされました。

<例2>

では、2つ目。
この2つの商標は類似するでしょうか。

ロゴ説明用(犬のロゴ)

この事件でも類似と判断されました。
「出願商標と先登録商標との差異点は、上記のとおり(裁判所は細かくデザインの細部を比較しますが、便宜上ここでは省略します)、両商標に離隔的に接した場合には明りょうに把握できない程度の微差であるか、そうではないとしても、看者の印象に残り難いものであるのみならず、いずれも両商標の構成上の細部にわたる要素に係る差異であるにすぎない。
そうすると、そのような差異点から看者が受ける印象の相違は、上記の外観全体から直ちに受ける視覚的印象をさほど減殺するものではなく、簡易、迅速を重んじる取引の実際においては、この点が明りょうに意識されるものとも認め難い。」
というのがその理由です。

<例3>

3つ目。
これも動物をモチーフとしたデザインの類否です。
この2つの商標は類似するでしょうか。

ロゴ説明用(らくだのロゴ)

この事件では、両商標は類似しないとされました。
「①出願商標は首が大きく曲がっているのに対し、先登録商標はすらっとした直線的な首である。②出願商標は顔の部分が丸みをおび口が下向きとなっているのに対し、先登録商標は顔の部分がやや上向きで口がとがったように表されている。③出願商標は四つの脚をそれぞれ別々に踏ん張るようにくばっているのに対し、先登録商標は前脚と後脚のそれぞれが重なっている。
そうすると、出願商標と先登録商標とは、主要な構成要素の大部分の表現態様が相違していて、全体として看者に異なる印象、記憶を生じさせるといえるものであるから、両者を時と所を異にして離隔的に観察するも、外観において相紛れるおそれのないものといわなければならない。」
というのが、その理由です。

<その他の事例>

両商標が類似するとされた事例
ロゴ説明用(リングのロゴ)ロゴ説明用(Sのロゴ)両商標が類似しないとされた事例

ロゴ説明用(星のロゴ)ロゴ説明用(アスタリスクのロゴ)

まとめ、これから商標登録をしようとお考えの方へ

いかがでしょうか。
<例1>が類似するという判断は納得できる方が多いのではないかと思います。
ただ<例2><例3>になると判断は分かれると思います。
商標を専門に扱うものとしても判断に困る悩ましい事例です。
しかし、一般にロゴやキャラクターなどを商標登録しようとする場合、そのデザインをデザイン事務所に外注に出すなど、既にいくばくかの費用をかけていたりするものです。

せっかく作ったロゴをそのまま寝かせておくのはもったいないと思いませんか。

商標登録に先立つ調査で似たような登録商標が見つかったとしても、ぜひ一度、出願して特許庁の判断を仰ぐということも検討してみてください。